あぐり先生の第4弾

投稿者 あぐり 日時 1997 年 8 月 21 日 04:38:18:

 長々と書いてるとすぐに「強制終了」になってしまうようなので、小刻みに書き込んでます。申し訳ありません。それでも読んでくれるという貴女に感謝。



 シドは、黙ってヴィンセントの顔をまじまじ見つめた。頭がおかしいのだろうか、こいつは。それともこっちの耳がおかしいのか。
「私はどうやら、熱い情熱を持った魂に惹かれるらしい」
 ヴィンセントは続けた。
「この間から、あんたから目が離せない。そんな自分に気づいて、今度こそ決めたのだ。自分に正直になろう、とね」
「お、おい、ヴィンセント」
「分かってる、言いたいことは。頭がおかしいのではないか、と言いたいんだろう」
「だって・・・」
「その通り、私は狂っているのかも知れない」
 ヴィンセントは立ち上がった。シドもつられて立ち上がり、ヴィンセントの顔を不安げに見上げた。
「よせよ、冗談キツイぞ。じぶんで言うのも何だが、こんな老け顔のオヤジをつかまえて・・・」
「ご謙遜だ」
 ヴィンセントは無表情なまま歩み寄った。その赤い目にじっと見られて、シドは背筋が寒くなった。
「あんたはきれいだよ。何もかも輝いてる」
「う・・・」
「あんたの欠点は、自分を見つめている視線にまったく気づこうとしないことだ」
「・・・!」
 ではヴィンセントは、自分をじっと見つめ続けていたというのだろうか。
「あんたはそれでひとりの女性を泣かせ続けてきたんだろう・・・そろそろ罰を受けてもいい頃かもしれん、な」
「ど、どういう意味だ」
「こういう意味だ」
 ヴィンセントは、何の前触れもなくガントレットの手を握りしめ、シドの腹の辺りに強烈なストレートをたたき込んだ。あまりにも不意のことなので、シドはよけることもできず、もろにそれを受けて体を折り曲げた。
「ぐっ・・・」
「声を上げても誰も来ないよ。さっき廊下を走っていたユフィとレッドを怒鳴りつけたろう」
「テ、テメエ・・・」
 ヴィンセントは続けて、シドの横っ面を殴りつけた。シドは床に吹っ飛ばされて転がった。
「知らないとは言わせない。むかし、同じようなことがあったろう」
「・・・!」
 どうしてそれを、とシドは起き直ろうとしながらギクリと身をすくませた。ではこの奇妙な男には、何もかもお見通しなのだろうか・・・
「あんたは生意気な若僧だったようだが、別に悪意があって生意気にしていたわけじゃなかった。あんたをむごい目に合わせた連中の中には、あんたがひそかに敬意を払っていた人間もいたようだが・・・」
「・・・テメエ、何で・・・」
「でも、その生意気な態度からは、相手には、あんたの敬意は伝わっていなかったようだ。だからあんたはよけいに傷ついた。そうだろう」
 ・・そうだった。シドは記憶の底に閉じ込めていたことを今こそすべて思い出した。
 十年前、彼を監禁していたぶった先輩たちの中には、シドが尊敬していた男が混じっていたのだ。確かにそうだった。
 ことが終わった後、シドがそいつを叩きのめさずにいられなかったのは、そのためだ。裏切られた怒りのやりばがなかったのだ。
「ヴィンセント、どうしてお前がそのことを・・・」
「見つめていればわかる。私にはすべて」
 ヴィンセントはシドのそばにひざまずき、青白い顔を近くに寄せた。
「思い出させてすまなかった」
「・・・」
「だが、かわりに何もかも忘れさせてやる。だから私の想いを受け入れてほしい」


 とりあえずここまで。続きはまた後で・・・


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