あぐり先生の第1弾

投稿者 あぐり 日時 1997 年 8 月 15 日 01:49:15:

 最初に言うておきます、これはシド受小説です。興味のない方、おいやな方はここで引き返して下さい。あぐり、お酒の力を借りて、蛮勇をふるってこれから書きます。どきどき。


「艇長はん、艇長はん」 
 ケット・シーが駆け込んできたとき、シド・ハイウィンドは、デッキで煙草をふかしていたところだった。外の景色を見るともなく眺めながら・・・。
「ああ、何だあ?」
「ユフィはんが大変なんですワ」
 シドはペッ、と音をたてて、短くなったタバコを吐き捨て、ブーツの底で踏みにじった。
「可愛そうでんなあ、船酔いだけは特効薬があらへんさかい。そやけど、ほっといたら死んでまうで。・・・とても見てられへんワ、あの苦しみようは。ワテは機械やさかい、別状あらへんけど」
「ばかやろう、船酔いで死んだヤツあいねえや」
 シドは眉間に深い縦ジワを刻んで、それでも医務室へ歩みをはやめた。ケット・シーがにぎやかな足取りで、けんめいにそれに続いた。
 医務室では、ユフィが苦闘の真っ最中。陸上でのイキのよさが嘘みたいに、死んだ魚さながらにぐったりして、何やらぶつぶつ文句を言っている。
「うーーーん、ぐるじいよう・・・気持ち悪いよう・・・おろしてー、おろせーーー、このこのこのーーー」
「ユフィちゃん、ユフィちゃん、しっかりして」
 ティファが背中をさすっても、却ってそれが嘔吐中枢を刺激したらしく、ユフィは枕元の洗面器を引き寄せて、
「おっ、おえーーーー」
 とえずくだけだった。でも、胃のなかはとっくにからっぽで、何も出てこない。
 ユフィはベッドの上にどっと大の字になった。
 シドは眉をピクピクさせた。
「誰だぁ、このねえちゃんを医務室に運んだのは?!」
「・・・見てられなかったんだもの。あんまり苦しそうで」
 ティファが気まずそうにつぶやいた。
「ばかやろう」
 シドは一喝した。
「医務室ってなァ、けが人のためにあるモンだぜ・・・船酔いなんかで使われてたまるかい!」
「艇長はん、そ、それはあんまり・・・」
「るせえやい」
 シドは大またにベッドに歩み寄った。ティファもケット・シーも、シド艇長の一喝が飛ぶのかと思ってはらはらしたのだが・・・。
「おい、ねえちゃん、シャンとしろよ」
 シドの言葉は意外におだやかだった。
「なんか食え、口ン中が荒れるからよ」
「う、うー・・・艇長あっち行ってよぅ、タバコくさいよぅ」
「聞こえねえのか、おい。胃液ばっかり吐いてると、口ン中が荒れるからよ・・・おい武闘家のねえちゃん、スープかなんか持ってきてやってくれよ」
「う、うん」
 ティファはほっとしたように立ち上がって、医務室から出ていった。
 すぐにスープがティファの手で運ばれた。
「おい、ニンジャのねえちゃん」
 シドは意外に優しい声で言った。
「食いな」
「うーーーん、やだよぅ、すぐに戻しちゃうもん」
「すぐ戻してもいいから、とにかく何か胃に入れな」
「そうよユフィ、何だっていいから食べなくちゃ」
「うーーー」
 ユフィは頭をもたげた。
 ティファが、子どもにそうするようにひとさじひとさじユフィの口に運んでやるのを見ながら、シドは医務室をあとにした。
「さすがでんな、艇長はん」
「なに、船酔いなんてなァ気のもんだ。ヘベレケになってる時、足元がぐるんぐるん回ってるような気になることがあるだろーが・・・それと同じことサ」
「そんなもんですやろか。ボク、酒のまへんからようわからんのですワ」
「乱気流にでも突っ込んだとか言うんならとにかく、ノーマル・フライトであんな、この世のものとの思えんような顔してるようじゃ、先が思いやられるぜ」
 ・・・ケット・シーが、こちらをじっと見つめている視線に気づいたのは、その時のことだ。
「ヴィンセントはん」
「お、タークスのにいちゃん。そんなとこで何してんだ」
 ヴィンセントはかぶりを振った。
「別に・・・、ただ、なりゆきを見ていただけ・・・」
「?」
「意外だったな、シド・・・。あんたはあんな小娘に興味ないと思っていたよ・・・」
 シドは肩をすくめた。
「今だって別に興味なんかねえよ。ただ、オレの船で死にかけてるヤツがいるのに、ほっとくわけにゃあ行かないだろうが」
「・・・」
 ヴィンセントはマフラーの下でほほ笑んだようだった。そして、何も言わずにきびすを返した。
「何だあ、あいつ・・・」
「あの人、いつもああなんですワ。なーんもいわんで、気がつくとじーとこっち見たはる・・・」
「シケた野郎だぜ」
「そうですやろか。不器用なおひとなんだと思うけど、ボクは」
「・・・」
「でも、戦う時はしっかりしてまっせ・・・ボクも何度かかぼうてもろたし」
 シドは唾を吐いた。そして、それっきりユフィのことも、ヴィンセントのことも忘れてしまっていた。

 シドは、あまり他人に興味のない人間だった。自分のことで手いっぱいで、前を見るのに手いっぱいで、周囲に気配りをしている余裕がないとでも言うのか・・・。それでもその熱いハートが周りの人間に伝わるらしく、誰もが艇長、艇長と彼を慕ってくれるのがつねだった。
「ユフィちゃん、おへやに戻したわ」
 ティファがデッキに報告に来たときも、シドは黙って外を眺めてるきりだった。
「そうか、何か食ったか」
「スープと、サンドイッチをすこし。すぐ戻しちゃったけど、だいぶ気分が違ってきたみたい。さすがね、艇長さん」
「ああ、この先も、ノビるようだったら遠慮なく口ン中に食い物突っ込んでやんな。頼むぜ、ねえちゃん。花売りのねえちゃんがもういねえから・・・女の子のこたあ、あんたにまかせるわ」
 ティファは親指を立ててOKポーズをとると、デッキから降りていった。シドは微笑し、また外をながめるのに戻った。
「・・・何を見ている?・・・」
 陰気だがやわらかい声がした。シドは死ぬほど仰天した。ヴィンセントから声をかけられたのは初めてだ。
「あ、ああ、まあ何だ」
「外に何が見える」
「・・・珍しいな、タークスのにいちゃん・・・。あんたがこんなとこに来るたあ」
 ヴィンセントは返事をせず、シドと並んで外を見た。
 二人はしばらく黙って、風を浴びながら流れていく景色を見ていた。
「・・・私は長年眠っていた」
 少しして、ヴィンセントがぽつりと言った。シドは一体何を言い出すのかと、顔を上げて見た。
「私の罪におののきながら・・・自分のしたことを悔いながら。心を閉ざして、現実から逃げていた」
「・・・」
「あんたがうらやましいよ、シド・・・。私の心は長い眠りに溶けてなくなってしまったらしい」
「・・・そんなこたあ、ねえだろう」
「・・・」
 ヴィンセントはためらうようにつぶやいた。
「ありがとう・・・」
 そして長い髪をかきあげると、無表情なまま、シドの唇に自分の唇を一瞬、押しあてたのだった。

「なんや、艇長はんがヘンでんな」
 ケット・シーが呟いたのは、翌日のことだ。自分の考え事にふけっていたクラウドは、夢からさめたように顔を上げて、
「え?」
「なんやヘンなんですわ。考え事でもしたはるんやろか?床板は踏み抜くわ、廊下の壁には激突しはるわ・・・」
「そんなの、オレだってよくやるよ」
「クラウドはんは、こう言うたら何やけど、世間一般の基準とあてはまらんさかいナ」
 ケット・シーは冷たく呟いた。クラウドは何を言われたのかよくわからないらしく、あいまいに笑っている。
「心配でんなあ・・・陸ではとにかく、何たってこの艇は、シドはんあってのハイウインド号やさかい」

 シドは何百回めかのため息をついて、タバコを灰皿にすりつけた。外に出ていると、何のドジを踏むかわからないので、部屋にこもってしまって数時間になる。外はもう夜になるはずだった。
 ヴィンセントが何を考えているのか、それがわからなくて、ゆうべから普段使わない頭を使って悩みに悩んでいるのである。・・・親愛の情の表現なのか、単なる友情の証か、それとももっといけない何かか・・・しかしそれはあんまり考えたくない・・・。シドはシドなりにヴィンセントを認めていて、好きなのであるから。
 シドは、男なんか大嫌いなのだ。それもちゃんとした理由があって。・・・もう十年以上むかしになるか、パイロット候補生の卵として神羅で働き始めたばかりのころ(笑ってはいけない)、まだ若くて、理想に燃えていて、紅顔の美青年と言えないこともなかったシドは、候補生仲間に乱暴されたことがあったのだから。
 未来のエースパイロットとして将来を嘱目されていた若者に、嫉妬したのか、何なのか。自分より2つ3つ年上の候補生たちは、数人がかりでシドを監禁して、そして・・・
 シドはその時のことをよく覚えていない。むしろ覚えているのは、朝になってやっと解放された時の、胸がこげるほどの悔しさと屈辱のほうだ。
(これで少しは先輩に対する礼儀を覚える気になるだろう)
 にやにやしながらシドの猿ぐつわをはずした候補生の顔を、シドはにらみつけ、思い切り唾してやった。怒って殴りかかろうとする相手に、シドは一歩も引かずに戦って、そして、結局仲良く営倉入りになった。それでもそのことを知った同級生も先輩たちも、誰もシドを悪くは言わなかった。そのことで卑屈にならず、一歩もひかずに戦ったことで、シド・ハイウインドの名誉は守り抜かれたわけである。
 それでシドも、そのことはすっかり忘れてしまっていた。
(なんてこった、それがあのタークスのせいで、思い出しちまったじゃあねえか・・・)
 外をバタバタと誰かの駆ける音がする。ユフィが元気になったのだろうか。
「うるせえやい、日照り続きでホコリが立つだろが!艇ン中では静かにしやがれ!」
 シドは怒鳴った。それきり外は静かになった。
 ノックの音がしたのはその直後である。シドは舌打ちした。
「今、取り込んでんだ。一人にしておいてく・・・れ」
「・・・私だ、シド」 
「ヴィン・・・」
「艇長が元気がないというので皆が心配していた・・・それで、酒保から酒をもらって来た」
「・・・」
「私のせいなら・・・それは一言あやまりたい」
「・・・」
「・・・」
 ふう、と外で長いため息がした。
「・・・すまなかったな。ここに酒は置いて行く」
「ヴィンセント・・・」
「・・・おやすみ」
「待て、ヴィンセント」
 シドは立ち上がり、扉を押し開けた。
 暗い廊下で、ヴィンセントのすっきりした細身が、立ち止まってゆっくりと振り返った。


とりあえず今夜はここまで。この先は・・・そうデスね、受攻が気に入らない方は、逆にして考えて下さっても構いません。まったく構わないと思う。
 でもあぐりはシド受で進めちゃいますからね。うん。いやなかたは、ほんと、読まないで・・・読んでから石とか卵とか腐ったトマトとかぶつけちゃいやですよっ。
 ではでは・・・。


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