雷火(らいか)
原作:寺島優
作画:藤原カムイ
発行:スコラ(バーガーSCデラックス:通常版  バーガーSC:普及版)
コード:ISBN4-88275-029-5(通常版)
掲載雑誌:月刊コミックバーズ(連載中)
単行本巻数:通常版/14巻まで  普及版/刊行中

・あらすじ
  女王卑弥呼が邪馬台国を治め、其の栄華を極めていた頃のお話。大陸は、いわゆる三国時代で、国の覇権を賭けての戦が絶えなかった。倭(やまと)は、邪馬台国が最大勢力を誇り、他の国は、其れに連合していた。只一つ、邪馬台国の南に位置する狗那国が、邪馬台国の侵略の機会を、虎視眈々と狙っていた。
  邪馬台国を訪れている大陸の使者「張政(ちょうせい)」は、卑弥呼を殺害して邪馬台国を乗っ取り、ゆくゆくは倭を我がものとせんと企んでいた。そして、卑弥呼は張政に暗殺され、卑弥呼の次の女王として、筆頭巫女の「壱与(いよ)」を即位させようとしていた。張政は、傀儡の女王としてではなく、彼女の特殊な力に目を付けたのだ。
  邪馬台国からあまり離れていない、熊鬼山という山に、一人の老師が住んでいた。彼は、山に捨てられたり、戦で親兄弟を失った孤児達を育て、過酷な環境で生き抜く為、彼らに神仙術を教えていた。老師は、孤児達に「山から降りてはいけない。国の争いごとに干渉してはいけない」と教えていた。老師は、実は大陸の人間で、国の争いに虚しさを感じ、山に住む様になったのである。
  孤児の一人「雷火(らいか)」は、仲間のウツキやオタジと共に、遊びで山を降りた。其処で壱与と出逢い、彼女と再会の約束をする。雷火は、壱与との再会を果たす為、老師の教えを破り、邪馬台国の卑弥呼の宮殿へと向かう。そこで、雷火は運悪く、卑弥呼が暗殺された現場に遭遇し、女王暗殺の濡れ衣を着せられる。
  何とか難を逃れ、張政の企みを知った雷火は、壱与が女王として即位する日に、ウツキやオタジと共に、再び邪馬台国へと向かう。その時、張政の企みを知った一人の邪馬台国兵士、キジノヒコが、投馬国王と共に、張政暗殺を企んでいた。
  雷火達は、壱与を救出する事に成功した。壱与は「雷火から離れたくない。が、邪馬台国の人々が、女王としての私を待っている」という事に気付き、邪馬台国へと戻ろうとする。雷火も、其れを承知し、二人は別れる。
  その後、雷火、オタジ、ウツキは、張政に親を殺された(父親が、卑弥呼の殉葬者の一人となった)タキを引き連れて山を降りる。老師の教えを破ったのは勿論の事、張政の野望を打ち砕く為、多くの仲間が必要と感じたのである。
  そして、盗賊の首領クコチヒコらと出会い、かつては敵対していたキジノヒコも仲間にする。
  そして、雷火の一行は、邪馬台国と争う程の大国である狗那国(くなこく)へ辿り着き、そこで大王と対面する。大王から、衝撃の事実を突きつけられる。「お前は儂の息子で、狗那国の王となる人間なのだ」と。
  狗那国で自らの運命に目覚め、そして父である大王の死を乗り越えた雷火は、狗那国の大王として、邪馬台国へと向かう。張政の野望を打ち砕き、そして野望に利用されんとしている壱与を助ける為に・・
 
・書評?
  良く考えてみると、この漫画は斬新な部分が多い。例えば、舞台が古代日本である部分。知る限りでは、この時代を舞台にした漫画は、見た事がない。まぁ、この邪馬台国という国自体が曖昧な存在なだけに、描きにくくもあり、描き易いのかもしれないが。神仙術という、普通の人は知らない様な体術を扱う部分。これに関しては、ストーリーと係わりがあるので、外せない要素である。
  出会いや闘いを通じて、成長していく雷火と仲間達。
  そして、忘れてはいけない存在が。壱与の忠実な家臣?である、忍狼のキバである。壱与を助け、雷火達に協力する其の姿は、もう一人の主役と言っても過言ではないかと。
  藤原の話では、もう間もなく、連載が終了するそうである。果たして、雷火達はどうなるのか。此処数カ月は、其れを見守るべきであろう。まぁ、心は既に、次の「福神町綺談(仮称)」に移行しつつあるのだが(苦笑)。何はともあれ、コミックバーガー創刊当時から続いた連載(10年)も、ようやく終了した訳で。ご苦労様。個人的には、12年程前、スピリッツで連載されていたものの、結局は未完となってしまった「鬼童(キッド)」を再開して欲しいのだが、難しいかな(藤原は「鬼童も、やりたいけどねぇ」と苦笑していた)。
  尚、単行本は、値段が少々張るものの、それだけに洒落た装丁となっている。「雷火」に限らず、藤原の単行本は、洒落た装丁のものが殆どだ。とか書いているうちに、普及版の単行本第一巻が発売された。価格は、通常版の半額(400円)なので「雷火」未体験の人は、この機会に読んでみてはどうだろうか?
  一先ず、此処までにしておこう。書評に関しては、単行本が出揃ってから加筆をしたい。
 
・雑記
  さぁ、皆さんもご一緒に!「僧莎訶(すーばーはー)」(爆)<取り敢えず、第一巻を読めば判るのだが、張政が発勁を放つ時の掛け声。一応、これは密教に属する言葉である。当時、周囲で、妙に流行した(笑)。
  作中でも触れられているが、雷火達が使う神仙術(単に「仙術」と呼ばれる場合もある)は、忍術のルーツと言われている。又、密教や陰陽術に酷似した呪いも使う。
  壱与は、鬼道を使う。動物との意志疎通が可能であるというが、同じく動物との意志疎通が可能な風間準(鉄拳2)も、鬼道に精通していたのであろうか(笑)。
  そういえば、かなり前に話に挙がった雷火のOVAの話は、白紙になってしまったみたいね(苦笑)。
  俺の様に、デビュー当時から藤原カムイを知っている人間は別として(この辺は、例えば「宝島のインタビュー記事を読んだ」や「当時、漫画ブリッコを読んでいた」とか(爆)であろうか)、普通の人は「ドラゴンクエスト-ロトの紋章-(エニックス:コミックガンガンでの連載は、無事終了)」と並ぶ代表作では?と思っているかもしれない。確かに、其れを否定するつもりはない。事実、今のコミックバーズ(旧:コミックバーガー)は、この作品で保っている様なものである(笑)。
  「雷火」は、藤原にとっては通算2作目の、原作付きの漫画だ。1作目は、竹熊健太郎原作の「おいね」。竹熊らしいとでも言うべきか、原作からして、既に無茶苦茶な作品だった(笑)。3作目は、押井守原作の「犬狼伝説」。映画「赤い眼鏡」「ケルベロス-犬狼伝説-」の原作でもあるが、かなりマイナーな映画だった(苦笑)。「おいね」は、藤原カムイ全集に収録されているが、犬狼伝説は、其の大きさ(大友克広の「童夢」や「AKIRA」等と同じサイズ)にも係わらず(笑)、現在では入手困難となっている。
  この文章を書いていて、ふと思いだした事がある。絵呂漫画家「大暮維人(おおぐれいと)」の「青輝丸(せいきまる)」という漫画なのだが、主人公とも言える青輝丸(ジャーマンシェパード)と、其の主人である岩清水まどかに、壱与とキバの姿がオーバーラップして見えたのだが、どうだろうか?・・って、誰に問いかけている?(苦笑)