覚悟のススメ
作者:山口貴由(やまぐち たかゆき)
発行:秋田書店(少年チャンピオンコミックス)
コード:ISBN4-253-90632-X
掲載雑誌:週刊少年チャンピオン(連載終了)
単行本巻数:全11巻
・ストーリー
 21世紀初頭、全世界を襲った、地球規模の地殻変動は3年に及び、多くの生命と秩序を破壊した。東京も例外ではなく、かつての大都市の面影はなく、過酷な環境へと変化した。
「病んだ地球を救う為に、抹殺すべきは人類」と考え、戦術鬼や不退転戦鬼軍団を率いて人類抹殺を実行せんとする「現人鬼・散(あらひとおに・はらら)」。
「憎むべきは人類にあらず。人の皮を被った悪鬼こそ、諸悪の根元」という、父である「葉隠朧(はがくれ おぼろ)」の言葉を貫くべく、兄である散を、たった一人で止めようとする「葉隠覚悟(はがくれ かくご)」。
 太平洋戦争当時、戦局の不利を打開する為「葉隠四郎(覚悟と散の曾祖父)」によって極秘裏に開発された戦術兵器「強化外骨格」に纏わる悲劇が生んだ、そして人類の命運を賭けた、兄弟の抗争。
 果たして、覚悟と散の運命や、如何に・・

・書評
 第一話のオープニングが、山口の「平成武装正義団」と似た様な展開、というのには苦笑してしまったが、山口が全身全霊を傾けたこの作品では、些細な事である。
 
 一見「北斗の拳」風に見える(スケールの大きい兄弟喧嘩(笑)、荒廃した未来に、相似点がある)かも知れないが、其れとは違う。「北斗の拳」は、シリーズを追う毎に、ケンシロウの闘う理由が不透明になり、尚且つストーリーに魅力がなくなった。惰性で連載していては、そうなってしまって当然である。方や「覚悟のススメ」は、山口が表現したかった事を描いて、其れで完結させてしまった。「編集サイド(或いは会社)の方針の違い」と言ってしまえば仕方ないが、熟成させすぎて腐らせてしまうよりは、新鮮なうちに頂いた方が良いに決まっている。
 
 この作品を一言で語るならば「恐ろしいまでに勢いがある」であろう。作品内では、終了までの時間経過が推定2週間。其れを2年という歳月で書き連ねたのだから、其の密度は推して知るべし。其れに加え、登場人物(人外も多いが)、ストーリー展開、強化外骨格でのバトル・・これらが全て噛み合って、何とも表現しがたい「勢い」を生み出している。
 只、話の最後の方で「まさか!」と思うか「そう来るかぁ?」と思うかは、読み手の判断に任せたい。
 
 これは、もっと多くの人達に読んで貰ってもおかしくない作品だ。

・関連文献
「コミッカーズ」96年12月号 「覚悟のススメ マニアックス」
「覚悟のススメ」終了記念で特集された。山口のインタビューを始めとして、用語集、関連アイテム紹介(ドラマCDやOVA、プラモデル)等、これでもかと言わんばかりに「覚悟」を掘り下げている。又、山口の全作品リストも掲載されている。数自体は少ないが(笑)。
「コミッカーズ」のバックナンバーは、確認した限りでは、神保町「すずらん堂」にて入手可能。

・雑文
  登場人物の台詞が、舞台演劇風の言い回しなのである(コミッカーズのインタビューで、山口本人も語っていた)が、其れに魅力を感じるか、という点でも、評価が分かれるかもしれない。
 
  極太明朝の大幅活用に付いては、エヴァンゲリオンよりもこちらの方が先である(笑)。
 
 作品中に登場する強化外骨格。覚悟は「零(ぜろ)」、散は「霞(かすみ)」、朧は「雹(ひょう)」、そして四郎は「霆(てい。「いかずち」と読む場合もある)」を着用する。唯一、葉隠ファミリー以外で唯一人、強化外骨格を着用する、不退転戦鬼軍団長「ボルト」は「震(しん)」。
「震」以外の強化外骨格に刻まれている言葉について。零の額には「七生(しちしょう)」と刻まれている。この言葉は、仏教用語で「七度生まれ変わる」が転じて「何度も生まれ変わる」「永遠に」の意味がある。太平洋戦争当時には「七生報国」なる標語があった。
 続いて霞。衿の部分に「八紘(はっこう)」と刻まれている。「淮南子(えなんじ。前漢の学者で、彼が著した書物の事も指す。この場合は、書物の方)」によると「四方と四隅」「地の果て」が転じて「天下」「全世界」を意味する様になった。同じく太平洋戦争当時に「八紘一宇」なる標語があり、これは「世界の家を一つにする事」の意味。当時、日本の海外侵略を正当化する為に用いられた。この標語の出典は、日本書紀。
 雹。額に「神武」と刻まれている。神武天皇の事と推測される。これは、雹が開発初期に制作された強化外骨格だからであろうか。「神武以来(じんむこのかた)」という言葉があり、意味は「大昔から」或いは「由来の極めて古い事、先例のない事を誇張した表現」となっている。
 最後は霆。額に「悠久」と刻まれている。書くまでもないかもしれないが、念の為。「長く久しい事」が転じて「永久」の意味を持つ。