電脳歴。
 人類は自らの生活圏を地球上のみならず、地球の周回軌道上、そして、月にまで手を伸ばした。
 太古の時代より続いてた「国家」という概念に代わり、「ハイパー・コンテンツ・プロバイダー」と呼ばれる巨大多国籍企業を母体とした「企業国家」と呼ばれる国家形態の中で、人々は暮らしていくようになる。
 だが、人々の生活水準はさして変わらず、「企業国家」の中で生きる人々にとって、旧来の国家行政機構は社会組織の活性化、モチベーションの維持等の意識から精神的帰属意識の拠り所として、存在意義を見出すようになる。かつての有力国家の首都は聖地と呼ばれる様になり、類型的意味における宗教的理念の発信地として、無視出来ない影響力を維持するものも少なくなかった。

 電脳歴(以降V.C.)84年、企業国家の一つであるDN社は、自社再整備区画の中で、謎の建築物と、巨大なクリスタル状の物体を発見した。後にムーンゲート、V・クリスタルと呼ばれる物である。
 V・クリスタルは、人間の意識を吸収、捕縛、活動シミュレーションを行う等の精神干渉機能を有していた。クリスタルに関わった大半の者がこれらの現象に合い、一時的な記憶の欠落から記憶喪失、酷い者は意識を吸収されたまま植物人間と化す場合や、同時に発症した二人の意識が回復後入れ替わる等、決して無視出来ない深刻な事態まで発生した。
 この現象を、関わった人々はある種の畏れを持って“virtual on”、バーチャロン現象と呼ぶ様になった。

 それから3年後のV.C.87年。発掘中の遺跡から全長50mはあろうかという、巨大な人型構造体の残骸とおぼしき遺物が発見された。
 辛うじて原形を留めていた頭部には、小型V・クリスタルとも言うべき物が組み込まれていた。「バルバスバウ(BBB)ユニット」と呼ばれるようになるこのユニットは、バーチャロイドの雛形と言うべき存在である。
 「電脳虚数宇間」(以降C.I.S.)と呼ぶべき異空間への出入りすらも可能にするこのV・クリスタルの発見は、人間が自らの手でバーチャロイドを創造するという行為にまで発展した。
 V.C.94年、リバース・コンバート成功によりMBV−04「TEMJIN(テムジン)」ロールアウト。以降HBV−05「RAIDEN(ライデン)」、TRV−06「VIPER(バイパー)」シリーズ、MBV−09「APHARMD(アファームド)」、SBV−07「BELGDOR(ベルグドル)」、HBV−10「DORKAS(ドルカス)」が開発される。
 また、これら全てのVR技術を結集させたVR−014「Fei−Yen(フェイ−イェン)」は、BBBユニットを使用しない、初めてのVRとして完成した。かつてVR開発の目的である「C.I.S.自由往来システム」が、フェイ−イェン完成によって、現実の物となったのである。
 しかし、フェイ−イェンは開発責任者と共に突然姿を消した。いや、彼は自ら開発したVRの真の力、そしてムーンゲート、BBBユニットの本当の意味を知り、これらが人間の私利私欲によって乱用されることを恐れ、開発工程などのデータを抹消し、フェイ−イェンを何処かへと逃がしたのである。
 フェイ−イェン。彼女はVRとしては類い希な能力を秘めていた。C.I.S.を行き来するだけでなく、人間←→ロボットへのコンバートという相互変換能力までも持ち合わせていたのだ。
 この事実を知ったDN社は、直ちにフェイ−イェン並びに開発責任者捜索を開始した。
 しかし、責任者の身元は依然として掴めず、フェイ−イェンもまた、追っ手を逃れ続けている。
 そして、残された僅かなデータを基に、レプリカVR製作が開始された。そしてV.C.9e年、SRV−014「Fei−Yen」がロールアウト。
 この7機のVRを「VR第一世代」と呼ぶようになる。

 「兵器」としてのVRは大変強大な力を持っていた。それ故に最高幹部会はVRの自衛兵器以外の使用を禁じた。使い方を誤れば人類はもちろん、地球自体に多大なダメージを与えかねないからだ。
 そこで、次に開発されたのは能力を大幅に削減した、パフォーマンス用のVRである。
 だが、操縦方法は戦闘用VRと同じ「マインド・シフト・バトル・システム」を採用し、殆ど実戦と同じバトルが繰り広げられた。 
 ライセンス取得についても「16歳以上のVR搭乗講習全課程を修了、実技試験に合格した者」とされた。
 この頃には人間が人工的にC.I.S.を発生させる技術も開発され、その中に戦闘用スペースを建設。そこからの映像により試合の様子を観戦することが出来た。
 このプロジェクトは大当たりした。競馬やオートレースに変わるギャンブルとして正式に制度が設けられ、子供相手にスケールモデルなどのグッズが飛ぶように売れた。
 何より、このブームを引き起こしたのはビデオゲーム「バーチャロン」に依る所が大きい。ライセンスがなくとも(擬似的とはいえ)VRの操縦が出来る。このコンセプトは日本を中心に世界中にムーブメントさえも発生した。
 この時まで、VR開発はDN社の独壇場であった。
 V.C.a0年を迎えたこの年。DN社は社運を賭けた大舞台を秘密裏に遂行していた。これが後に「オペレーション・ムーンゲート(O.M.G.)」と呼ばれる事件である。

 V.C.a4年、DN社に対抗すべく、新勢力rn社が設立。その殆どがDN社から引き抜かれた、選りすぐりの人員ばかりであった。
 また、rn社が独自に開発した、新たな7機のVR「第二世代VR」が開発された。
 第一世代以上に個性付けされた新しいVRの登場により、戦闘用VRとしても新たに開発される運びとなり、翌年には全機が戦闘用VRとしてロールアウトされる。
 rn社の「バーチャロイド・パフォーマンス・バトルショー」(以降V・P・B)参戦により、ライセンス取得者が急激に増加した。
 それと同時にVRを使用したテロ行為等を懸念し、DNA、rnaが連合し、自衛目的の為のVR戦隊「Blau Stellar」が結成される。
 また、戦闘用VRパイロットライセンスの規格が設定された為、V・P・Bパイロットを「P(パフォーマンス)・パイロット」、Blau Stellar所属パイロットを「B(バトル)・パイロット」と区別するようになる。
 B・パイロットは「P・パイロットライセンス所持の18歳以上の者」とされ、毎年世界中から大多数の受験者が殺到した。しかし、この試験に合格できるのはほんの一握りである。時に応募倍率は何百倍、何千倍にもなった。
 全てのP・パイロットにとって、B・パイロットは憧れであり、目標でもあった。
 ごく希に、P・パイロットとして優秀な成績を修めた者が引き抜かれるというケースもあり、特に「優勝すれば必ずB・パイロットへの道が開ける」という世界大会は、毎回ハイレベルなバトルが繰り広げられている。

 D.N.A.、r.n.a.連合VR戦隊「Blau Stellar」は、主に災害救助、内戦での事態収拾を主な任務とした。時にはV・P・Bに特別参戦する等もあったが、一度なってしまえば除籍されるまでは永久に生活が保障されこともあってか、第二の人生としてB・パイロットを目指そうとする者も少なくなかった。
 部隊は全て、ナンバリング管理される。たまに語呂がいい数字を割り当てられた時などは、部隊通称として、隊員が好きに名前を付けるケースが多い。代表的な例として、第6741中隊の「LUNA SEA」隊、第901中隊の「GLAY」隊、第9012特殊攻撃部隊の「CRAZE」隊等が挙げられる。

 第9012特殊攻撃部隊、通称CRAZE隊。Blau Stellarの最終兵器とも言われ、今までに数々の特殊任務を遂行してきた。
 隊長クラスはP・パイロットとしても名高い者ばかりで、中にはサイファー開発時のテストパイロットを務め、自らのパイロットネームがサイファーの由来になった者もいる。
 しかし、彼らが戦場に出る事はほとんどない。
 何故なら、彼らには「他の部隊が遂行出来なかった危険任務」しか与えられないからだ。
 B・パイロットなら誰でも憧れるCRAZE隊。しかしその裏での評判は散々だった。
「お払い箱」「厄介払い」等々……
 それでも、彼らは自分がCRAZE隊一員であることに誇りを持っている。

 V.C.a7年。CRAZE隊の大幅な人事異動が決行された。
 運命に導かれた14人が、今ここに集結する。