1/=V−フィールド理論概論=

 何故、バーチャロイドは過多なダメージをその機体に負っても、装甲が剥離するのみで決定的被害を被らないのか!?
 確実にそう成りえるであろう状況に陥ったとしても、どうして頭部が弾け飛んだり、腕が切り落とされたりといった現象が、ことVRに関してはまるで見受けられないのか!?

 それを説明するのが、トウマ博士ことDr.Tが提唱した、M.S.B.S制御下における、Vコンバータの自己防衛フィールド発生機構理論「V−フィールド理論」である。


2/=Vコンバータのエネルギー活用=

 元々、ブラックボックスであるVコンバータには、未だに解明されていない要素が非常に多い。第一世代VRから第二世代VRに引き継がれ、Vコンバータそのものも大幅にパワーアップを遂げたが、その事実は今も変わらない。

 まず先に、第一世代VRを例に、V−フィールドを説明する。
 もっとも普通に見られた高汎用VR、テムジンのエネルギー出力機構を解析してみると、Vコンバータのエネルギーは各機動制御の他に、レフトウェポンであるパワーボムの生成に転用されている。
 ちなみに、ビームライフルとビームソードのエネルギーはカートリッジ式である為、Vコンバータのそれを介してはいない。
 そして、当然ではあるが、Vコンバータのエネルギーはいくら旧式と言えど、この程度の使用では枯渇しない。いや、むしろエネルギーの転用を、設計の段階で押さえている、といった方が正確な表現となるであろう。

 何故なら、バーチャロイドがもっともVコンバータのエネルギーを余剰に消費しているのが、「自己防衛フィールドの形成」についてだからである。
 対VR戦闘モードに限らず、M.S.B.Sが臨戦態勢に入り「GET READY?」の電子音がパイロットに通達される頃には、目視可能なV−フィールドゲージは0%から徐々に増幅し、100%に到達する。
 VRのパイロットであれば、自機のシールドを確認するのに、モニター上にパーセンテージ表示される緑色のゲージ(敵機は黄色で表現)を見たことがあるだろう。
 そう、あれが他ならぬV−フィールドのゲージなのだ。
 自機の物理的な防御能力を解析し、表示させている訳ではないのである。


3/=シールドゲージの真意=

 その証拠に、自機の装甲剥離が発生しない程度の被弾でも大ダメージを被ることがあるし、かつ、派手に装甲が吹き飛んだ場合でも、致命傷と呼ぶには程遠いダメージしか負っていない場合もある。
 それは、シールドゲージが機体の防御能力のみを示しているのではなく、M.S.B.S制御下における、V−フィールドの発生率を示しているからなのだ。

 外見上、ほぼ無傷に見えるVRのシールドが5割を割り込んでいたり、ボロボロに見えて大破確実のVRがしっかり歩いて見せたり・・・といった「見た目と残シールド%の矛盾」が生じ、メンテナンスする作業員の感覚を悩ませているのは、こういった理由なのである。
 あのゲージは物理装甲ではなく、V−フィールドを表示しているのだ。


4/=要するにV−フィールドとは何なのか?=

 平たく言ってしまえば、V−フィールドとはそのまま「VRのシールド」であると言える。
 M.S.B.Sの制御下に置かれたVコンバータが初期化処理を行うことは周知の事実だが、この初期化の段階でV−フィールドの発生は起こる。
 つまり、逆の言い方をすれば、M.S.B.Sによって未制御のVRは単なるガラクタであり、この時に攻撃を食らってしまえば腕は落ちるし足も斬り取られてしまうのだ。
 が、一旦V−フィールドが発生して安定してしまえば、ゲージが0%に陥ってVRが頓挫しない限り、戦闘行動が不能になるような物理的致命傷は決して負わない。
 これが、二足歩行の巨大ロボット兵器に実用化のメドが立った、第一の理由である。

 要するに、V−フィールドとは。
 VコンバータがM.S.B.Sの管轄下に置かれた時、自動的にVRの周囲に発生させる「自己を防護する為の、一種のバリア」であると表現することができる。
 そして、このバリアは被弾することによって徐々に削られていき・・・濃度が0%に到達した時点で、Vコンバータが勝手に「これ以上の戦闘は不能」だと認識してしまい、VRは制御不能になって頓挫、となるのだ。


5/=V−フィールド郵攪_の貢献面=

 仮に、機械破損面で「まだ動ける状態」にあっても、Vコンバータは問答無用でV−フィールドがゼロになった時点で、自己を防護する手段が皆無である→戦闘続行は不可能と判断し、一切の機能を停止する。
 見た目、まだ動きそうなVRがシールド0%になった時点でその場に倒れ込み、以後まったく動かなくなってしまうのは、この為なのである。

 それだけに、VR同士の戦闘とは「V−フィールドの削りあい」と言えよう。
 お互いに攻撃し、相手に攻撃を命中させてV−フィールドを減退させ・・・先に0%とした方が「勝ち」となる。

 何故なら、Vコンバータの沈黙したVRは、それ以上継続して戦闘を行うことが事実上不可能であるからだ。
 ことVR戦闘に関しては、こちらの攻撃でV−フィールドを剥離させてしまえば、相手を完全に破壊する必要がないのである。

 そして、これがVR戦闘を限定戦争としてショーアップさせ、かつ最低限のパイロットの人命保持に貢献していることも、事実である。
 完全破壊の必要がなく、V−フィールドを先に全て剥離させてしまえば、こちらの勝利が保証されるのだから。


6/=装甲・機動力とV−フィールドの関係=

 ここまでの説明で、V−フィールドとはVRが自分で展開する「バリア」だということが分かって頂けたと思う。
 しかし、まだ納得のいっていない部分もあるだろう。

 それは、基本的に出力値に決定的な差違の認められないVコンバータを使用しているにも関わらず、VRの種類によって・・・V−フィールドの安定性にかなりの違いが見られる点についてだと思う。
 すなわち、ライデンとサイファーでは、明らかに防御能力が違うということ。

 これは、装甲のみを見ると一目瞭然だが、V−フィールド理論を考慮すると、逆に矛盾が生じて納得いかない、ということになってしまっているのだと思う。
 だが、Dr.Tは実に明解な見解を示している。

 それは、「Vコンバータのエネルギーをどの部分にどれだけ振り分けるかで、そのVRの個性が実質的に決定する」という、まったく新しい理論だ。
 ここでは、第二世代VRを例にあげて、各VRについて説明しよう。
 研究者としてr.n.a.に属し、VR開発に秘密裏に携わったDr.Tの本性が、多少なりとも分かっていただけることと思う。

 また、基本的にVコンバータのエネルギー割り振りが全てではなく、設計や機構などの様々な事象で、VRの基本能力が決定することを留意されたし。

◆MBV-707-F VR.TEMJIN
 高汎用VRである為、Vコンバータのエネルギー割り振りが、機動力とV−フィールドに置いてそれほど差違がないテムジン。
 機動力は、地上機動と空中機動にほぼ同等の性能を付与している為、パイロットによっては若干「地上機動力が低いのでは?」といった懸念を抱く者もいる。
 武装面は、LWのボムにVコンバータのエネルギー転用。

◆HBV-502-H VR.RAIDEN
 機動力を犠牲にし、V−フィールドに重きを置いて、シールドを強化している典型のパターンなライデン。
 つまり、Vコンバータのエネルギーの大部分を、機動制御にではなくV−フィールドの発生に活用しているということ。
 武装に関しては、LWのグランドナパームにエネルギー転用している。CWのレーザーは、Vコンバータのエネルギーを介さずにレーザー照射機より直接発生させている。

◆RVR-14 VR.FEI=YEN−Kn 
 ライデンとは逆に、V−フィールドを軽視して地上機動力を向上させているフェイ=イェンKn。それだけにV−フィールドが薄く、特に近接攻撃によって致命的なダメージを食らってしまう。
 なお、フェイに関してのみ、V−フィールドが50%未満に到達した時点で、Vコンバータのリミッターが解除される、特殊機構が組み込まれている。詳細不明。
 武装では、CWのハートビームにてエネルギー転用。

◆RVR-42 VR.CYPHER
 フェイ=イェンKn以上の軽装甲で、V−フィールドはほとんど無視され、機動力にVコンバータのエネルギーを注ぎ込んでいるサイファー。
 このVRに関しては、V−フィールドが「面」のレベルでしか展開されていない。
 バイパー時代から「紙飛行機」とあだ名されている所以である。
 それだけに脆いが、地上・空中機動力ともに非常に優秀。
 制空の覇者。
 武装面は、CWのホーミングビームとLWのダガー、二種に転用。どれだけV−フィールドを犠牲にしているかが伺い知れる。

◆RVR-39 VR.APHARMD−B
 テムジンと同等に、機動力とV−フィールドに対して同等のエネルギー割り振りを行っているバトラー。このVRは非常にバランスが良い例である。
 空中機動力を犠牲にして地上機動に重きを置いている為、テムジンと比較してより地上戦用の感あり。
 武装は、CWのビームトンファーにエネルギーを転用。直結式だが、エネルギーの展開部をトンファーの軸に限定するという工夫がなされている為、Vコンバータの負担はさして大きくない。
 これといった欠点のない、完成されたVRである。

◆RVR-33 VR.APHARMD−S
 機体ベースは、バトラーと同等のストライカー。それだけに、V−フィールド・機動力ともほぼ同一レベル。
 ただしこの機体、グレネードキャノンを肩部に装備している為、重心がイマイチ安定せず非常に転倒しやすくなってしまっている。
 コスト削減の為、バトラーのスケルトンをそのまま転用した報いか。

◆SAV-326-D VR.GRYS=VOK
 Vコンバータのエネルギーを、特に武装転用面に注ぎ込んでいる珍しいタイプのVRが、このグリス=ヴォック。
 機動力はある種テムジン以上のものがあり、武装もVコンバータのエネルギーを相当に割り振っている為、信じられないレベルの弾幕を張ることが可能。
 だが、その為にV−フィールドが少々薄く、特にビーム兵器に関しては脆い面がある。
 装甲自体は重戦闘VRレベルであるので、対衝撃装甲はまずまず。

◆RVR-68 VR.DORDORAY
 ライデンとは別の形で、V−フィールドに重点を置いているのがドルドレイ。
 この機体は、一定濃度を越えたV−フィールドが、特定の攻撃を弾き飛ばす磁場を形成する「Vアーマー」という現象の実現に本格的に取り組んだVRである。
 具体的な設計面では、Vコンバータの設置周囲を可能な限り平面化し、V−フィールドが安定しやすい構造にする、というものだったが・・・効果は絶大で、Vアーマーを実戦で活用できるVRに仕上がっている。
 武装では、CWのVハリケーンにエネルギーを転用。

◆XBV-819-TR VR.BAL=BADOS
 少々血色の違う、特殊なVR。
 腕部・脚部と計4つのERL(脱着可能なビット)を装備させ、その制御にVコンバータのエネルギーをかなり使用している。それ故、V−フィールドの安定性がいまひとつで、オマケに機動制御面に関してはM.S.B.Sが混乱をきたすような支障が発生してしまっている。
 要するに、動きがヘンなのである(笑)

◆SGV-417-L VR.ANGELAN
 謎の多いVR。
 Vフィールドに関してはフェイ=イェンKnと同等の率だが、機動力に関しては未解明の部分が非常に多い。但し、空中滞空力は優秀。
 武装では、全ての攻撃を「超低温に維持されたビーム弾」という訳の分からない状態で射出している為、Vコンバータの負担もそれなりに大きい様子。

◆RVR-87 VR.SPECINEFF
 空中機動に比重を置いたサイファーとは好対称に、地上機動に重点を置いているのがこのスペシネフ。また、V−フィールドについても若干エネルギーを多めに割り振ってある。
 武装に関しては、LWのデスボールにエネルギー転用。この攻撃はビームフィールドの維持を長時間安定させる為、意外と多くのエネルギーを必要とする。

◆CTV-001 UNKNOWN.AJIM
 機体そのものがVクリスタル。それだけに、自身の移動=機動力にかなりのエネルギーを割り振っている。
 また、武装に関しても然りで、一般に言うところの「兵器」というものを何ひとつ装備していない。すべてをVクリスタルのエネルギーでまかなっている。
 アジムの攻撃は、Vクリスタル直接生成だけに、Vクリスタルの破片を再構成して作成したVコンバータより生ずるV−フィールドの磁場・・・つまりVアーマーでは絶対に弾けない。これ故、逆算的理論により、アジムの攻撃がVクリスタルから直に捻出されている物だということの証明になっている。
 Vクリスタルそのものである為、装甲に関しても相当な代物を持ち合わせている。
 ひとつ興味深いのは、これを無理矢理M.S.B.Sを直結させて制御しようとした場合、制御機構に過分な拒否反応が見られる為、V−フィールドの発生が非常に不安定になってしまう・・・という点。
 つまりこのアジム、人が操るとV−フィールドがサイファー程度のものしか生成されないのだ。


以上。トウマ・ジーナスウィンド博士(Dr.T)
「V−フィールド理論」より抜粋