「そいつはヤガランデのコピーだ!! サイファーの姿をしたヤガランデだ!!」


 緒方の口から聞こえたのは、衝撃の言葉。

 ヤガランデ。それはOMGに於いて、全てのパイロットに恐怖を与えた幻の様なVR。あの菊地哲が「ヤガランデの洗礼」に遭い、これを撃破出来なかった。それほどまでに未知の力を持つ。
 そんなVコンバーターをを搭載したVRがこの世界に存在するなど、あり得ない話だった。しかし、それが現実だとわかった今、水無月淳、アリッサの中にあるのは、戦慄。

「許さない!!!」
 サイファーがマルチランチャーを構える。銃口に光が集まり、それが収縮して一直線の光の帯を発射した。ここが水中で、光学兵器の威力が落ちるとは思えないほどのレーザー。
「避けろ!!」
 水無月が声を荒げる。アリッサも持ち前の超反応で回避した。
ドガーン!!
 レーザーがヒットした岩肌が、派手に爆発した。その様に、水無月は、ごくり、と唾を飲む。
 数の上では2:1。こちらの方が有利ではあるが、相手の力は未知数。加えて「ヤガランデ」のVコンバーターを搭載しているとあれば、いくらサイファーと言えど、どのような攻撃を仕掛けてくるか判らない。
 しかし、考えている暇などないのだ。ここは戦場だ。敵がいる以上、自分達も戦わなければならない。
 例え、それが勝ち目のない戦いだとしても。
 サイファーがライデンをロックオンし、攻撃を仕掛けようとした。
「まずい!!」
 水無月は直ぐさま体制を整え、ミサイルをフルロードする。水中では実弾系の攻撃が有利であり、今回彼の戦い方は大いに注目されている所である。
 サイファーをロックオンしたミサイルは、目標を違わず一直線に発射した。だが、水無月は手を休めることなく、次々にミサイルを発射させる。
 爆炎が途切れることなく発生した。水中補正も手伝い、水の中だというのに、辺りは火の海と化した。
 だが、その炎の中にあっても、サイファーは傷一つなく、Vアーマーすら剥離していない。サイファーを挟んで向こう側にはアリッサのライデン。攻撃を仕掛けていた様子はない。
 防戦、と言うよりは、攻撃出来ない、という表現が正しいか。
 アリッサが攻撃出来ないとなれば、実質オフェンスは水無月のみとなる。だが、相手は何故かライデンに固執する。
 どうにかして自分に注意を向けなければ、理想的な2:1の形に持ち込めない。
「くそ…… 一体どうすれば……」



 幸せだった。決して恵まれた生活だった訳ではないが、それが「幸せ」だと思っていたから。
 自分を拾ってくれた、見ず知らずの男が、来夢の「家族」だった。他にも、たくさんの「家族」がいた。
 裕福になりたいとか、贅沢がしたいとか、そんな事は思わなかった。ただ、「家族」達と過ごす時間が、いつまでも続けばいいのに。
 それだけが願いだった。
 戦いによって、打ち破られた幸せ。父親代わりの男を事故で失い、残された「家族」達と、ささやかな幸せを守ろうとした矢先の出来事。
 来夢は逃げた。ただ一人の「家族」と共に。自分に残された、最後の「家族」。失う訳にはいかない。
 だから、彼女は戦う。
 本当は、いつまでも戦いのない世界に身を置いていたいのだけれど。



 サイファーが執拗にライデンを襲う。本当はライデンでなくても、むしろグリス=ボックとの方が、機体性能的にはサイファーにアドバンテージがあるはずなのに。
 アリッサは電磁ネットや電磁ボムでサイファーの動きを止めようとする。しかし、サイファーの割に鈍重なくせに、ことごとく交わされてしまう。
 だが、それだけが秘密ではない。
 ダッシュ時、初速こそ遅いものの、慣性がつけばつくほど、このサイファーはその速度を増していくのだ。
「許さない…許さない… 親父の仇…皆の仇…… あたしの家族を奪ったあんた達を……」
 サイファーのマルチランチャーからレーザーブレードが展開する。軌道はただ一つ、ライデンに向かっている。
 アリッサもそれに気付いた。だが、慣性のついたサイファーは本来の、いやそれ以上の速度で迫っている。
「!!!」
 眼前に迫るブレード。それがライデンのボディに寸分違わずヒットする。
「きゃぁぁぁぁっっっ!!」
 ライデンがVアーマーを飛び散らせ、派手に横転した。アリッサのライデンも、哲のドルドレイに匹敵するスピードと反応速度を持つ。それが反応出来なかった。

「ヤガランデ…… だめ……」





「ねぇ、もう一回言って」
 三輪は、五目の口から出た言葉を、すぐに信じる事が出来なかった。
 三輪もまた電脳師であり、O.D.A.に関わる情報の殆どを把握していたはずだった。しかし、今回ばかりは自分が知らされる事となる。
「だから、あのサイファー。ヤガランデの実体化実験の「寄り代」なのよ。町中の小さなファクトリーを装わせて、何も知らずに働いていたのよ。あの男以外は」
「じゃぁ……」
「さしずめ、あの子は何も知らされていなかったのね。あのシューフィッターが持って行かれて、そのタイミングを狙って工場襲撃。これもMeisterのご命令。それを連中の仕業と見せかけて、サイファーだけは逃げられるようにお膳立てさせたの」
「そんな……」
 三輪は言葉を失った。来夢が家族を失ったのは、全てMeisterの計画の為……?
「だって、それにヤガランデの起動実験は……」
「三輪。それは機密よ。それ以上しゃべるなら、私貴方をこの場で殺さなければならない」
「……そうだったわね。殺されるのは困るわ。お嬢様をこれ以上一人には出来ないもの」
「私も、無益な殺生でWAL様に嫌われたくないわ。ねぇ、知ってる? WAL様は、昔……」
「その話も結構よ」
「なによぉ」
「有益な情報をありがとう。貴方のご主人様にもよろしく伝えて頂戴」
 三輪は踵を甲高く鳴らし、その場を離れた。

「まだ肝心な話をしていないわよ、三輪。だって、そのサイファーは……」





 四人が四人とも、言葉を失った。あのおしゃべりで有名なKönigin Rでさえも。
「シーラ」
「どうした?」
「つまりはこういうことやな。あのサイファーには、ヤガランデのコンバーターが搭載されておる」
「そうだ」
「要するにだ。あのサイファーは、ヤガランデに搭載されるコンバーターの実験体にされとる、っちゅー訳やな」
 Kavalier Sは答えなかった。いや、答えられなかった、というのが正確な所だ。Königinはその沈黙を持って、自分の疑問が肯定されたと判断した。
「ヤガランデをテストしとんのは誰や? 俺もアホちゃうで。そういう事になっとるくらい、空気読めるわい」
 KavalierSklaveが目を合わせた。Sklaveはかぶりを振る。
「恋、これは多分Meisterしか知らないことだ。俺達も調べたんだけど……」
「そっか……」
 Königinはそれ以上追求しなかった。電脳師ランク特S4ランクのSklaveを持ってしても、恐らくたどり着けなかったのだろう。それ以上追求する必要はないと、彼女は思った。残ったハイボールを一気にあおる。
「せなんだ、そんなんであいつらがどうにかなるとは思えへんねん。あのバルの仲間やぞ。グレンデルもあいつらにやられた……」
「恋……」
「あのサイファーのパイロットが、あいつら相手にそこまでやれるとは思えへんねん。死ぬで、あいつも。いや……」
 Königinが紫色に塗られた形よい唇に、煙草をくわえる。直ぐさまKavalierが火を点けた。
「『魂』食われるで。ま、仕方あらへんな。負けたらそうなるんが俺達や」
 紫煙を吐き出し、身体をKavalierに預けた。投げ出された身体を、Kavalierも愛おしく包む。
「なぁ、お前ら。Aliceが復活したら、何『お願い』するん?」
 Kavalierに包まれたKöniginがくすくす笑う。
 Meisterはかつて言った。Aliceが復活すれば、いつか朽ちてしまうこの肉体から解放され、永遠の存在になることが出来ると。
 四人が四人、互いに目を合わせ、笑った。
 その言葉を口にする必要など、彼らにはないのだから。





 サイファーのダッシュ近接がヒットし、ライデンが派手に倒れる。だが、サイファーが追い打ちを入れようとした時に、既にライデンはその場を離脱していた。サイファーの動きが遅いのと、ライデンの動きが速いのが幸いした。
 しかし、シールドゲージは既に半分に近づいている。インカムから入ってくる情報には、勝利と共に、敗北も聞こえてきた。せめて、自分達は最悪でも相打ちに持ち込みたい。
「ヤガランデ……」
 アリッサは、このサイファーと対峙した時、サイファーの奥深くに眠る「何か」を感じていた。それがヤガランデだとは思わなかった。自分はヤガランデを知識としてしか知らないのだ。
 ただ、漠然とその意識を感じていた。まさか、それがヤガランデだとは思わなかった。
「だめ…ヤガランデ…やめて……」
 一般的に、ヤガランデは「破壊神」として恐れられている。何故に造られた機体なのか、制作者と言われているプラジナー博士の真の目的は? 何もかもが未知の存在故、ヤガランデはただただ、恐れられていた存在だ。
 しかし、アリッサが感じたヤガランデの意識は、全く正反対だった。恐れなど感じない、むしろヤガランデ自身が発している「恐怖」を感じたのだ。
 「彼女」自身が、何かに怯えている。それは自分の力なのか、それ以外なのか。残念ながら、今のアリッサにそれ以上を深く知る能力はない。
「ヤガランデ……」
 だから呼びかけるのだ。「彼女」が何故に、この世界にいるのかを。
「ヤガランデ…どうして……? あなたは……」
「危ない!!」
 インカムから飛び込んできた声で、アリッサは我に返った。目の前にダガーが迫っている。持ち前のスピードでこれをかわし、電磁ボムでけん制する。
「ぼさっとしないで! くそ…っ…… あのサイファーなんなんだよ!!」
 水無月が苛立ちを隠せないでいる。DOI−2から常に「冷静であれ」と言われているが、そうも行かない年頃だ。
「こうなったら一気にフルリロードで……」
「やめて!!」
 アリッサが大きな声を上げるのは、滅多なことではない。殆どないと言っても過言ではない。
 だからこそ、アリッサは訴えるのだ。「ヤガランデ」を攻撃するのを「やめて」欲しいと。
「ヤガランデは悪くない…… 悪くないの……」
 なおもライデンに迫るサイファー。再度ブレードを展開し、今度こそライデンに引導を渡さんとする。
「やめて、これ以上ヤガランデを……」

 ぱぁぁぁんっっっ!!

 ライデンが光に包まれると、何かが砕け散った。
『あいつ! またアーマーブレイクを!!』
 モニタリングしていた緒方も、流石に驚いた。この状況下に於いて、アーマーブレイクという選択肢を採るなど、誰が予想出来ただろうか。
 しかし、相手がヤガランデと判った以上、アリッサにはこの方法しかなかった。
 そして、アーマーブレイクした以上は一発の被弾も許されない。故にその行動は、命を懸け戦い抜く覚悟の表れだった。
『……ったく、大人しい顔して熱いの持ってんな。
 水無月、引き続きフォローしろ。お前ならサイファーの攻撃くらい簡単に相殺出来るはずだ』
「そんなこと言われても困りますよ!」
 しかし、今の状況下、自分がそうするしかパートナーを守れない。幸い、自分のシールドゲージはまだ70%後半を保っている。機体性能差で劣るのは否めない。しかし、今までの戦いを思い出せば、性能差などさほどのハンデではないのだ。
 戦うべきは相手、それ以上に自分。
「でも、このまま引き下がることも出来ないですからね。でないと、DOI−2さんに怒られますよ!」
 夜明けの空より深い瑠璃色のグリス=ボックが、一気に距離を詰めた。二機の間に割って入り、ハンドガンを撃ち続ける。
「この野郎!!」
 続けざまに低空ミサイルを発射する。少しでも相手の意識を自分に向けさせる為、ありとあらゆる攻撃方法を展開させた。
 これまで温存してきた力を解放させるように、水無月が攻める。
「邪魔よ!!」
 サイファーがフォースレーザーをグリス=ボックに向かって放った。しかし、これは避けられてしまった。逆にハンドガンがヒットし、Vアーマーが弾け飛ぶ。
「お願い! ヤガランデ! 私の話を聞いて!!
 どうして戦うの!? 何故戦っているの!? 何を…怖がっているの……?」
 オープンラジオでサイファーに語りかける。
 しかし、呼びかけられている来夢には、何のことだか一切判らない。ヤガランデって、何? どうして自分がそう呼ばれなければならないの?
「うるさい!! この子は…煉獏は親父が残してくれた、あたしの唯一の思い出。ヤガランデなんかじゃない!!」
 来夢の感情が高ぶったのに反応するように、サイファーを包む光が更に強まった。そして、来夢は自分の「意志」が、何かに吸い込まれそうになるのを感じた。
「……何……? この感じ……」
 まるで「持って」行かれるのではないか、という強い干渉。目の前が白む。かぶりを振って、自分を保つ。
「お願い…… ヤガランデ…どうして戦うの……? あなたは……」
「黙れ!! この子はヤガランデなんかじゃない!!」

『何故に私を呼ぶ?』

 聞いたこともない声が、アリッサの、来夢の、その場にいた水無月の耳に届いた。
「だ……誰!? 何の声なの!?」
 来夢の顔に恐怖が浮かぶ。嫌な汗がどっと出た。
「煉獏はあたしの物! 親父から預かった唯一の思い出!! 誰かいるの!? いるなら出てって!! あんたなんかいらない!!」
 涙ながらに叫ぶ来夢。既に頭の中が混乱している。自分を保つのがやっとだ。何が起きているのかすら判らない。
「いらない! いらない!! 出てって!! 出て行け!!!」
「やめて!! ヤガランデを責めないで!!」
 アリッサが大声を出している。彼女自身も既に何かに囚われてしまった感がある。ただただ、ヤガランデに呼びかけるだけだ。
 端から聞いている水無月は、何がなんだか判らなかった。何故、ヤガランデをアリッサが呼ぶのか? 彼女は何を知っているのか? さっき聞こえた声は誰なのか? 彼もまた、今の状況に混乱し、動けずにいた。

『全ての者が、私を恐れる。父上すらも、私を恐れ、封印した……』

「違う! あんたなんか知らない! 親父を返せ! 皆を返せ!! あたしの家族を返せ!!!」
「ヤガランデ、誰もあなたを怖がっていない…… プラジナー博士も……」

『お前は何者だ。何故に父上の名を…私の心を……
 そうか、お前は『クリスタルの巫女』…… 故に私の心に触れ、勝手に覗いた……』

「そうじゃない。ヤガランデ、あなたは……」
「やめろ!! あたしから煉獏を奪うな!! 親父を奪うな!! 皆を奪うな!!」

『私は誰からも必要とされない。父上すら、私を恐れた。
 だが、私に呼びかける声は違う。ずっと、私を必要としてくれる声が……』

「うるさい!! あたしの中で勝手にしゃべるな!! 出て行け!! 出て行け!!」
「ヤガランデ…お願い。違うの。プラジナー博士は……」

『もう、私は迷わない。私を必要としてくれるなら、誰であろうと構わない。
 私は……Aliceと共に生きる。彼女だけが、私を理解し、必要としてくれる』

「な…何……? 何なの……? いや…やめて…… あたしから煉獏を奪わないで!!」
「だめ! ヤガランデ! Aliceは…Aliceは……」

『さぁ、我が友Alice。そなたが私を求めるなら、我が手を取るが良い!!』


「ヤガランデ。あたしのお友達。あたしの器。今すぐあたしの側に来て……」


 耳ではなく、脳に直接響いてきた声。
 可憐な少女の声ではあるが、圧倒的な存在感と、畏怖すら感じる。
「いや…… やめて…… 煉獏を……あたしから奪わないで……」
 来夢は自分の存在が、全て消えてしまうような感覚に襲われた。自分が存在していた事実も、自分にまつわる全ての記憶すらも、何もかも消えてしまうような。
「やめて……来ないで…煉獏はあたしの物…いや…やめて……やめて……」
「ヤガランデ! この子は関係ない! 巻き込まないで!」

『さらばだ』


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっっっっっっ!!!」


 サイファーを包む光が、爆発を伴い海面を貫いた。アリッサも水無月も、一瞬で目を焼かれ、視界を奪われた。
 それはモニタリング中のキャリアーも同じで、真っ白い光が司令塔を襲う。
 誰も何も見えない状態で、視界が利くのを待つしかなかった。
 まさか、自分がヤガランデの意識を感じ、呼びかけてしまったから? それが原因であれば、全て自分が原因だ。どうしよう、取り返しのつかないことをしてしまった!!
 頭を伏せ、光を避けながら、アリッサは自分がしてしまったことを悔いた。自分のせいで、あのサイファーのパイロットをこんな目に遭わせてしまった。自分のせいだ、自分のせいだ。自分のせいだ!!
 やがて、光は少しずつ弱まり、青緑の残像が、アリッサと水無月の目に残った。それが消えた時、二人の目の前にいたのは……

「!!!」
「…何だよ、あれ……!!」

 視力が戻り、視界が開けた時、目に飛び込んできたのは……
「そんな……」
 アリッサはショックで言葉を失った。開かれた瞳から、涙が溢れる。
 そこにいたのは、異形のバーチャロイドだった。サイファーとも言えない、何でもないバーチャロイド。熱でスケルトンシステムが歪み、かつサイファーの物とも違うパーツが見受けられる。
「……………っっ……!!」
 何て事をしてしまったのだ、自分は!! アリッサの心の中は、後悔の念しかない。

『全ての人類よ。父上にすら忌み嫌われた私の力、その封印を解いたことを後悔するがいい』

 異形のバーチャロイドは、海底に吸い込まれるようにして消えた。


『クリスタルの巫女よ、私の意識を感じ取れるならば、追ってくるが良い。
 私は、月面の奥深くで待っている。Aliceと共に……』


 最後に聞こえたその一言を最後に、何もかもが聞こえなくなった。
 正確には、アリッサが『ヤガランデ』と呼びかけた声と、来夢の声が聞こえなくなった。何かが聞こえるならば、それはアリッサのすすり泣く声のみ。
 水無月は自分がほぼ何も出来ず、己の力不足を痛感せざるを得なかった。大したダメージもなく、自分が出撃した意味すら判らない。
『二人とも、お疲れ。今回収艇が順次回ってる。それに乗って帰って来い』
 緒方から労いの言葉がかけられるも、それも上の空。アリッサはただただ泣き、水無月は呆然とするだけだ。

『私の意識を感じ取れるならば、追ってくるが良い』

 そう言った『ヤガランデ』の声。アリッサには何かが見えていた。
 かつて、OMGの頃、「プログラムのバグ」として人々に恐れられていた頃のヤガランデの姿が。
 だが、アリッサはその頃のヤガランデの姿を、見たことはないのだけれど。


 アンダーシープラント 勝利者 アリッサ・水無月準組(対戦相手の戦線離脱による)



「ふぅ…… 何とか終わったな」
「そうね」
 キャリアーの管制塔で、緒方と友紀が大きく息をする。
「回収は?」
「千羽矢ちゃんと蒼我さんだけ先に帰還させたわ。もうドッグに入ってる」
「本人達が無事ならいいんだが……」
 ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ!
 直通回線が反応した。緊急を要する時でなければ繋がらない回線のはずだが、何故これが応答を求めているのか?
「……ったく、どこからだよ」
「キャリアーだわ。ユータ君の所からよ。何かあったのかしら……」
 回線を開く友紀。それと同時に、管制塔中にひどく興奮した声が響き渡った。

「ちちちち千羽矢ちゃんが撃破されたって本当ですか!?」