『全プラント及びムーンゲートを賭けて、全面的な限定戦争を申し込みます』
Meister O、彼(?)が率いるO.D.A.なる組織。Blau Stellarが総力を挙げてその正体を暴こうとしたが、手がかりはおろかO.D.A.なる組織が如何なるものであるかすらも掴むことが出来ない。
Meister Oが残した『明日の同じ時間、貴方がたのお返事を伺いに再度お邪魔させていただきますよ』という言葉を信用し、Blau Stellarはただ待つだけしか出来ない状況である。
そして、最高軍事会議では、今まさにBlau Stellarにおいて「彼ら」が最強であるか否か、無意味な決議が行われているところであった。
「奴は我々の中で最強、つまり『最も強い』部隊を指名してきた。先刻は遅れを取ったが限定戦争という形になれば……」
「だが貴公の部隊は先ほどの戦闘に於いて壊走したそうではないか。その様な部隊に最強を名乗られては我々の沽券に傷が付く」
「ならば、そなたの部隊一つで1個軍隊も相手に出来るというのか?」
誰も彼も自分の配下の部隊に「最強」の冠を与えたく、意味もなく躍起になっている。
リリンはその様を、さぞうんざりとした面持ちで「眺めて」いた。そして、この会議に形ばかり列席していた緒方豊和も、あくびを噛み殺しながら、出来ることならもう帰りたいと正直思っていた。
「お黙りなさい。お互いの自慢話はもう聞き飽きたわ」
さすがのリリンも業を煮やして幹部達を一掃した。時間がないのだ。こんな無駄話に付き合っている暇はない。
「誰でも自分たちが常に『最強』でありたいと願っています。
ですが、彼らの望んでいる『最強』がただ一つであり、それが既に証明されていること、皆さんお気づきでなくて?」
「お言葉ですがミスリリン、『最強』の定義などは決められたものではありませんぞ」
「その通り。さすれば、地球上における『最強』は我々であるが故……」
リリンはあまりに無意味な言い訳(もはや議会での発言ではなく)に、呆れるように溜息をつく。
「貴方達はMeister Oがどのように言い残したか、もう忘れるくらい耄碌してしまったの? それならばBlau Stellarにはもう無用よ」
リリンにはMeister Oが提示した『最強』にふさわしい部隊が既に判っていた。
『我々は貴方がたと限定戦争を演じるに当たり、これまでにない最高の人材を揃えたつもりです。
ですから、貴方がたにもそれに相応しい役者を用意していただきたい。
ただ強いだけでなく、ドラマチックで、且つエンターテイメント性の強い役者を。
民衆はもうV.P.B.等では物足りなさを感じている。
現在のバーチャロイド産業に於いて必要な要素を、我々は全て用意出来る。
この「ドラマ」が成功するか否かは、貴方がたのキャスティング次第なのですよ……』
『ドラマチックで、且つエンターテイメント性の高い役者』 リリンが知る限り、この要素を持ち合わせているのは「彼ら」だけだった。
どんなに危険な任務もパーフェクトにこなしてはいるが、大半の幹部からは問題児扱いしかされない「彼ら」。
そんな彼らこそ、この限定戦争の舞台に立つには相応しいと考えていた。
一度は黙った幹部達だが、どうしても「最強」の名が欲しいらしく、再び無意味な言い争いに戻っていった。
―やれやれ、やっぱりこれを機会に「過去の必要な遺産」以外は処分するに限るわね。
リリンは自分の側近の一人を呼び、数事耳打ちすると、自分の端末にデータを打ち込み始めた。
敵は全てのプラントと、封印したはずのムーンゲートまでもを占拠した。実働部隊の大半がオンライン戦闘だったとしても、その戦力は計り知れない。
目的は明かされていない。OMGの再現か、それともVクリスタルの確保か? なんにせよ、あの言葉通りなら自分達の知らない強力な乗り手を用意したに違いない。そこらの部隊の戦闘力では返り討ちに会うだけだ。
バーチャロイドという物は、実質的な戦闘力に加え、パイロット自身の心の「強さ」もまた武器となる。
物理的戦闘力に加え、精神的な強さを持つ「彼ら」こそが、「最強」足り得ると、リリンは判断した。
そして、その判断は確信となる。
「申し訳ないけど、私のデータ、過去の実績から今回の限定戦争に相応しいと思う部隊を決定しました」
リリンの一言が、一瞬にして幹部達を黙らせた。この沈黙は、明らかに自分の部隊が選ばれるのを期待した沈黙だ。ただ一人、この無意味な言い争いに参加しなかった緒方を除いては。
「緒方豊和大佐。今回の件は第9012特殊攻撃部隊に全てを一任します」
その名を呼ばれた緒方は少々驚いたものの、その表情はさも当然と言った感じであり、席を立ってリリンに向かい一礼した。
「受けてくれるわね?」
リリンは緒方の返事を待ったが、彼の顔を見て、その必要はないと思った。
選ばれて当然と言った自信と、誇り。そして、勝利への確信。緒方からそれら全てが感じられた。
居合わせた老将校達は、緒方が発する自信の前に、反論することすら忘れていた。いや、忘れていた訳ではない。それすらも全く意味を成さない行為であると感じたからだ。もし、下手に意見すれば自分の地位すら危ういものになってしまう。先刻、自らの地位を奪われたあの人間のように。
だが、それすら彼らには取り越し苦労に過ぎない。この部屋を出た時に、彼らの輝かしい功績は全くのチリと化すからだ。
「これからの全ての作戦は、9012部隊が独自に行って下さい。各基地での施設の使用権は、貴方がたに優先権を与えます。また、フローティングキャリアーの使用、各プラントへの進入、全てに於いても私の名の下に行って構いません。非常時には『リヴィエラ』の使用も許可します」
『リヴィエラ』とは、リリン専用のフローティングキャリアーである。そして、リリンから与えられた全ての優先権はBlau Stellarに於いては絶対の力を持つ物だ。リリンはいとも簡単にそれを与えた。彼ら9012隊がそれを笠に権力を振るったりはしないという、リリンからの信頼の証でもある。
「今回の件、私から直接お話ししましょう。
それでは皆さん、今日は解散です。
ごきげんよう」
リリンは年老いた兵士達に微笑みかけた。緒方に同行を促すと、足早にその場を立ち去ったのだ。
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その夜、CRAZE隊の面々はいつまでもミーティングルームに残っていた。
先刻まで、リリン・プラジナー直々から今回の一連の件の話を聞いていたからだ。
全員驚きは多少はあったようだが、自分達が担う責任の大きさ、重大さを身に浸みて感じた様だった。
それと同時に、自分達が選ばれたことに対する自信も、リリンには感じられた。
リリンはミーティングルームからの去り際、こう言い残した。
「貴方達はエンターティナーであると同時に、軍人でもあり、一人の人間でもある。今回の作戦に参加を表明しないのであれば、明日の会見には出なくて構いません。その意思を尊重し、異動という形で作戦任務から除外します」
それはすなわち「この作戦に参加するなら、命の保証はない」と言うことを暗にほのめかすものだった。
さすがに、その一言は全員が慎重に受け止めた。
リリン直々の拝命とは言え、生きて作戦を終えて帰れる保証は全くないと言うことだ。特に、CRAZE隊は若い隊員が多く在籍している。それも配慮した上での、リリンの一言だった。
「で、どうする?」
緒方の問いかけに、全員が答えを出しかねていた。
「どうする言われてもなぁ」
「リリンお嬢様は俺達をご指名な訳だし」
「断る理由もないよね」
隊長クラスは流石なもので、既に自分らに話が来た時点で作戦は成功したも同然と考えている。
「OMG再びとでも言いたいのか……」
DOI−2はDN社が置かれている現状(勿論rn社も他人事ではないが)を半ば嘆くようにつぶやいた。
OMG以降、母体であるDN社の状況は悪くなる一方だった。今だからこそrn社と組んだことでそれなりに動いているが、今でも毎日のように子会社の倒産話が聞こえてくるのが現状である。
自分が限定戦争に参加することでこの状況が少しでも和らぐのなら、とDOI−2は腹をくくっていた。それがD.N.A.に雇われている自分の役目であり、ここまで自分を使ってくれたことに対する恩返しにも思えた。
問題は、それ以外の面子である。
神宮寺深夜はかつての仲間が多く配属された聖域での戦況を聞き、居ても立ってもいられなくなった。今回の拝命は願ってもないものである。
染谷洋和は、この戦局の様子をたまたま別のモニターでうかがっていた。その中で、敵機のテムジンとドルカスの連携を目にした。ファランクスの波でサーフィンを楽しむかのようなテムジン。グランディングラムとも違う。言うなれば「サーフィンラム」とでも言おうか。そして、そのテムジンやドルカスには「6741」のナンバリングがされていた。奇しくも、そのナンバリングは、かつて洋和の部隊と共に行動し、ある日突然造反に及んだ部隊と同じだったのだ。
もし、彼らが本当にO.D.A.に寝返ったのなら、どうしても自分自身で決着を付けたいと、そう思った。この限定戦争に参加すれば、自ずと彼らと対峙することになるだろう。それを望んで、洋和は参戦を決意した。
この二人、今回の話が回ってこなければ自らリリン・プラジナーに直訴するつもりだったそうだ。
そして、他の隊員も「それが自分達の存在意味だから」と全員が参戦を表明した。
あまりにあっさりと全員の意向が決まったので、緒方としては少々拍子抜けだった。それと同時に、Blau Stellarに籍を置くことの意味を全員が理解していることに、ある種の安心感も感じた。
「今回の件で誰かしら参戦しないことも考えていたんだけど、それも取り越し苦労に終わったこと、それと皆が自分の立場をきちんと判ってくれたことに感謝します」
リリンがミーティングルームを去った後、緒方が壇上に立った。
「皆も判っていると思うけど、OMG終結から8年。俺らやDOI−2以外は殆ど話にしか聞いていない出来事だと思う。
OMGでは腕利きの、それこそエース級のパイロットもたくさん命を落とした。
俺達は、これから、たったこれだけの人数で、それこそ相手の軍隊全部と戦うことになる。
それこそ、命の保証なんかあるはずがない。
だからもう一度、考え直すなら今だ。参戦を取り消しても誰も責めたりしない。それは当然の選択だと、俺は思う。
お前達、本当にいいんだな?」
帰るなら今だ、といわんばかりにルームの扉が開いた。
それでも、誰一人として出ていこうとしない。
緒方は諦めたように笑い、扉を閉じた。
「判った。
このミッション、全員生きて成功させよう!」
「当然やろ!? 俺達は百戦錬磨のCRAZE隊やぞ!!」
藤崎が啖呵を切るように立ち上がった。
「俺達に遂行出来ない任務無し!!」
一郎がそれに続く。
「よ! お調子者番長!!」
千羽矢のかけ声に、一郎ががくっ、とうなだれる。
「お前な……」
「ぎゃーっ!!」
ばちん!!
一郎が千羽矢に抗議しようとした時、誰かが断末魔とも取れるような悲鳴を上げ、ノートパソコンが壊れるくらいの音を立てて閉じられた。
当然回りは驚いた。一番驚いたのは声のすぐ隣にいた千羽矢である。
声の主はパソコンに突っ伏して、まるで怖い物でも見たかの様に息を荒げている。
「びっくりしたー。もう、尚貴ちゃん脅かさないでよー」
千羽矢が抗議するのも当然である。その声は完全防音されているミーティングルームの外にまで聞こえそうなほどだったのだ。
「ごめ……」
息も絶え絶え、声の主は絞り出すように声を出した。
「心霊サイトでも見つけたか?」
緒方が呆れ顔で近づいてくる。
「いやね、昼間の声の主の後を追っかけてみたんだけど、途中まで行ってもう少しーって所で見つかりそうになって……
あっぶなかった〜。ばれたらマザーに介入入ってたもんさぁ」
せっかくデータ取れるところだったのに〜、と嘆く尚貴の行動に、一同が唖然とした。
この子は、軍が誇る最高の頭脳の持ち主すら出来なかったことを、いとも簡単にやってのけてしまうのだろう?と。
「もしかして、さっきから何かやってたの、それ?」
「そう、それ。なんか逆探出来ないの悔しくない? 嘗められてるってーかさ。むかつくんだよね。
レベル7まで行けたんだけどな〜」
途中で引き返せば良かったと何度も嘆く目の前の電脳師(この時代「ハッカー」行為はごく当たり前で、尊敬と勇気と軽い皮肉を込めて、彼らは「電脳師」と呼ばれている)を、隊員達は茫然としたまま見ているだけしか出来なかった。
そして、誰かが気づいた時には、緒方の姿は見えなくなっていた。
表の世界の、ずっと、ずっと、ずっと奥。
限りなく電脳虚数空間に近い世界。
全身黒ずくめの男が一人、バーのカウンターにも似た場所で端末と向かい合っていた。
「どうした? 明日香。また『仕事』か?」
同僚らしき別の男が声をかけた。二人の腕章と襟章に「318」のナンバリングがあることから、彼らが同じ部隊であることがうかがえる。
「ヴァイスか。気配を消して人の背後に立つんじゃない。俺ならまだしも、女王陛下なら振り向き様にターボ鎌だぞ」
長い付き合いなのか。それとも、彼らがそれほどまでに心を許しあっているのか。ヴァイスと呼ばれた男はその行為を特に咎められるわけでもなく、黒ずくめの男−明日香の隣の席に腰掛けた。
「で、相変わらずのお仕事ですか?」
「仕事と言うほどでもないさ。O.D.A.において『電脳師』の名を持つ以上は、常にその安全を確認しておくものさ」
「その割に、ずいぶん苦戦してたみたいだけど?」
ばつが悪そうに明日香が笑った。
「見ていたのか」
「いいや、たれ込み情報だけど」
明日香はついさっきまで無謀にもO.D.A.のマザーコンピュータに介入してきた人間がいたことを話し、ある画面を見せた。
「何これ?」
「追跡結果」
ヴァイスはその画面を斜めに見て、それから明日香の顔を見た。
「これ、本当に一般外部からの侵入か? 敵さんじゃなくて?」
「個人かどうかも不明だ。介入してきた時点で、既に向こうにプロテクトがかかっていた。
マザーを通していなかったから正体は判別出来なかったが、マザー経由で追跡しても身元が判明出来たかは微妙だ」
「まじで!? 解読出来ないプログラムは無いことで有名な伝説の電脳師・明日香悠紀でも破れないプロテクトがこの世に存在したとはな……」
「残念だが、今回は大人しく負けを認めるしかない。
ただ、向こうも障壁レベル7までは到達したが、そこでリタイヤだ。しかも逆探が入る前に強制断線した。データは持って行かれてないことを考えれば、五分五分だろう」
結果を示した画面を見つめ、煙草をくわえたままの形の良い唇から紫煙を吐き出す。
「障壁はまた強化しておいた。Zauber Kがいなくなった頃に比べたら俺の仕事もずいぶん減ったと思ったんだがな」
「あの人も不思議な人だったよな」
「出来れば戦いたくない」
「かつての仲間としてか?」
「純粋にパイロットとしてもさ。
あの人は強かった。 Gelöbnis Schildに選ばれなかったのが不思議なぐらいだ」
「じゃぁ、あの人に少しでも近づけるように、たまには組み手でもやらないか?」
「滅多に他人に声をかけないお前がどうしたと思ったが、やはりそれか」
ヴァイスがいたずらっぽく笑った。どこか遊び相手を見つけた少年のようなまなざしで。
そして二人の姿はノイズとなって消えた。
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明くる朝。Blau Stellarは大がかりな記者会見をセッティングした。
これもまた、O.D.A.からのわざわざのご指定なのだ。
どうやら、向こうはこの会見を全世界に発信する目論見らしい。これには、流石のリリンも閉口せざるを得なかった。
−こうでもすれば、私達は完全に彼らの宣戦布告を受けなければならなくなる。
追いつめられた、とは思いたくないけれど、仕方ないわね。
事実、先日の「謎のバーチャロイド集団の全面攻撃」は、全世界に報道される所となった。
「OMG再び」二匹目のドジョウを狙った子会社達は、自らの利益を求め、あるはずもないドラマをでっち上げた。
たった一つの小隊が、1個軍隊相当の敵と対峙し、それを撃破する。
まさにO.D.A.の指定通り、『ドラマチックで、且つエンターテイメント性の高い役者』が必要になったのだ。
その内容はOMGを上回る物であり、一般市民の殆どがそのドラマに興味を示していると、とあるネット放送局が独自に調査したという報告までもが公にされていた。
もはやBlau Stellarに選択の余地はない。
リリンは彼らの存在を、これほどまでに心強く思ったことはなかった。この時点でリリンは彼らが作戦を遂行不可能な確率が最も低いことを確信していたし(それはデータ上でも彼らの今までの実績からしても明らかだった)、彼ら自身、自分達が作戦を遂行出来ないと言うことはあり得ないと考えていた。
彼らは「OMGの英雄の生き残り」なのだ。
若い世代でさえも、自分達が「最強部隊」に籍を置くことを誇りに思い、今回の参戦を表明した。個人的理由はあれど、それは決して作戦の妨げになる物ではない。
まだ支給されて間もない制服に身を包み、彼らはその姿を民衆の前に現した。
民衆もまた、新たな英雄の出現に期待していることには間違いなかった。
全ての戦いは「今」から始まるのである。
Meister Oが指定してきた時間は、翌日のジャスト1200。
Blau Stellarの中の議会場を会見の場とした。多くの報道陣、逆探知を専門とした電脳師、そして、リリン・プラジナーと第9012特殊攻撃部隊の隊員が既に控えている。
相手はどのようにしてこの会見に乱入してくるのだろうか? 皆目見当も付かないまま、会見の時間となった。
モニターがリリンの姿を映す。
「地球圏に住む皆さん、昨日の報道はご覧になったでしょうか?
DN社、rn社の専売特許であるバーチャロイドを用い、我々が誇るパイロット達をわずか数時間で屈服させ、我々が所有する全プラント、及びムーンゲートを含む月面施設をも占拠した彼らの姿を。
彼らの目的は、未だ明らかになっていません。Vクリスタルの確保なのか、それともバーチャロイドの生産ラインの確保なのか。
何にせよ、地球圏に危機が訪れていることには間違いありません。
8年前の惨劇、オペレーション・ムーンゲートを覚えていますか?
今回の事件は、それの比ではない被害が出、我々は戦う前に追いつめられているのが現状です。
ですが、私達にはまだ希望が残されています。
かつての大戦を生き抜き、それからも多くの戦火をくぐり抜けた歴戦の英雄達が。
私達Blau Stellarは彼らを信じ、彼らに全てを託します。
Meister O、聞こえているのでしょう?
彼らが貴方達の野望を打ち砕く勇者達なのです!!」
画面がCRAZE隊を捉える。緒方を中心に、両脇を藤崎と成一、一郎と哲に分かれ、その後ろに各隊員が控えている。
その映像は、彼らの目の前に置かれたモニターでも確認出来た。だが、やがてそのモニターにノイズが走り出す。リリンは控えている電脳師に目配せで合図した。
「やっと姿を見せる気になったのね、Meister
O。
さぁ、はっきりさせなさい。貴方達の目的は何? 忌むべき月の遺跡まで手中に治めたのはどういうことなの!?」
リリンの姿がノイズで歪む中から、あの時と同じ声が聞こえてきた。
『これはこれはミス・リリン。本日も一段と美しく』
ノイズで歪んだ声。それでもリリンには昨日の声の主と同じに聞こえた。
「お世辞なら毎日聞き飽きているわ。
率直に教えなさい。貴方達の目的は何? 虚数空間まで支配しようと言うの!?」
くぐもった笑い。リリンはいらつく自分の感情を平静に保とうとする。
『虚数空間は既に大半が我が手中にある。これ以上の拡大の必要はない』
「ならば、何故貴方達はこのような暴挙に出たの!?」
『暴挙? 失敬な。我々は自分を支配するお方の命ずるままに動いている。
今回の限定戦争開戦も、そのお方からの命令に過ぎない』
リリンの表情に焦りが浮かぶ。他の隊員達もそわそわと耳打ちを始めた。
『ならばお教えしよう。
我らの願いはマザークリスタルからのAliceの復活。そしてAliceによる全ての統治。
すなわち、Aliceの元に全ての精神を統一させ、滅び行く個体を捨て、永久の時の流れに全てを預ける。
Aliceはこの地球の現状を大変嘆いておられる。
我々は、Aliceの願いを叶える為、その力を終結させ、Aliceの名の下に、今回の限定戦争を開戦した。
より強い意志をAliceに捧げ、復活への糧とする。君達の様なバーチャロイドパイロットの強い意志を、Aliceはご所望なのだ』
マザークリスタル、そしてAlice。聞き慣れない言葉だ。リリンの記憶の中にもその様な言葉は存在しない。
『我々はその為ならこの地球圏に住む人類全てをAliceに捧げることもいとわない。
Aliceに選ばれた者のみが、生きる権利を得られるのだ。
どうだ? 君達も、我々の同胞になり、永遠の魂を手に入れないか? 今ならまだAliceもお許し下さるだろう』
突然のMeister Oの申し出に、隊員達は互いに顔を見合わせた。
だが、藤崎が、一郎が、その静寂を笑いで打ち砕く。続いて成一も、哲も。緒方は4人と顔を見合わせて、悪巧みを考えた子供のように笑った。
「ねぇ、Meister Oさん。俺達が誰だか判ってて、そういうこと言ってんの?」
『……………?』
「俺達はそんじょそこらの部隊とは違う。金だけで雇われている連中と一緒にされても、困るんだよね」
「そーゆーこと。大人しくさ、あんたらも俺達に倒された方がえぇんちゃう?」
藤崎の悪態に、一郎と成一と哲が笑う。4人だけではない。その後ろに控える隊員達にすら、余裕とも言える笑みが浮かんでいた。
正に死にゆく作戦であるというのに、彼らはそんな状況すら、自分達を楽しませる要因の一つにしか無いというのだろうか。
『そういうと思いましたよ。君達はまがりになりにOMGの英雄の生き残りだ。そして、与えられた任務が困難であればあるほどその計り知れない実力を発揮する。
ミス・リリン。貴方は私が最も望んでいた役者を揃えましたね。
いいでしょう。それでこそ我らの力の絶対さを示すことが出来る。Aliceに選ばれし者の力をね……』
不思議な沈黙が流れた。張り詰めていながら、お互いにどこか楽しんでいる。
『ではゲームのルールを説明しましょう。
ゲームのステージは地球、及び月衛星軌道上に点在する全プラント、ムーンゲート全施設、そして、我々が指定した地球上のポイントです。
ハンデとして、こちらからはどの機体がお相手するかをお教えします』
「あ、それいらない」
緒方が声をあげる。
「そこまでしてくれなくていい。ゲームの駆け引きが面白くない。
キャラ勝ちの機体で勝っても嬉しくないよ」
ねぇ、と言わんばかりの顔を4人に向けた。その4人も同じように笑っている。
『さすがは青い星最後にして最強の戦士。逆境を乗り越えてこそ勝利に価値が出るというのですね。
判りました。その件に関しては、お互いシークレットにしましょう。
それでは、早速第1ラウンドのステージをお知らせします』
ノイズがかっていた画面が一瞬ブラックアウトし、見慣れた地図が表示された。JPN地区の全体図だ。それが1点にフォーカスされる。
「ポイントX139.7、Y35.6地点……」
「ウォーターフロントか……」
『その通り。旧世紀、ベイサイドとして大きく発展し、そして滅びた街だ。
過去の栄華を戦場にして、この上ないエンターティメントを作り上げよう。
それでは、お互いに良いパフォーマンスが出来ることを…… 1週間後にお会いしましょう』
モニターから聞こえていたノイズがなくなり、画面も鮮明になり、既にCMが流れていた。
「んじゃ、部屋行こうか。ちょっとだけ大事な話があるんだ」
大事な話、でも緒方の顔は笑っていた。大丈夫、深刻な話じゃない。
全員が席を立ち、ぞろぞろと後をついていった。
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「大した話じゃないんだけど、これから導入予定の新しいマインドシフトバトルシステムと、一部の新型機についてなんだ」
一瞬全員が浮き足立った。新型機、MSBSの新バージョン。バーチャロイドを駆る者にとって、これほどまでに魅力的な話はない。
「今開発で全力を挙げてロールアウトを急いでもらっている。でもあと1週間で全てが完成するか、といえば微妙になるんだ」
残念そうな顔をする者、小さく溜息をつく者、反応はそれぞれだったが、酷く落胆する者はいなかった。今初めて新型機の導入の話を聞いたばかりなのだから。
「流石にあと1週間は無理でも、1日でも早い完成を目指してくれている。
皆も見ただろうが、向こうのOSは明らかに俺らのとは違う。しかも、向こうでは既に新型機が導入されていた。
しばらくは俺達の方が不利な展開を強いられるだろう。でも、少しだけ待って欲しい。俺達が頑張っているところを見せれば、開発連もきっとそれに応えてくれる。
俺達は機体の善し悪しだけで向こうに劣るとは思っていない。むしろ、逆境こそが俺達に力を与えてくれると思っている。
確かに、俺達全員、出会ってそんなに時間も経っていない。でも、まだ1週間もある。お互いを理解し、チームワークを深めるのには十分だ。
大丈夫。俺達は絶対に勝てる。
俺達は、絶対無敵のCRAZE隊なんだからな!!」