第7プラント/リファレンス ポイント(第7攻撃大隊基地)
 4機のサイファーが基地の4つのシャフトに各一機ずつ着地し、降下した。
 第7地下格倉庫に着くと各4人のサイファーは機体点検にはいった。
「おい、ロキ。」
 ウリエルは隣にいたロキになにげなく声をかけた。
「・・・・。」
 しかし、ロキはうつむいたまま無反応。
「ロキ!」
「え?あ、はい何でしょう。」
 ロキははっとしていた。
「どうしたんだ?あの時(出発した時)からずーっと、黙ったまんまじゃねぇか。」
「そうですか?いや、なんて言うか変な感じがするんです・・・・これが嫌な予感というんですか・・・」
 言葉の最後でロキは微笑んだ。
「・・・へぇ、お前でもやな予感なんてあるんだ。」
「そうみたいですね。」
 ロキはあっけらかんとした声で言った。
「ロキ、そろそろ俺は特寮(軍事特別寮)に戻るわ。」
「そうですか。じゃ、お休みなさい。」
 ウリエルは去っていった。
「・・・・リファレンス ポイントですか。」
 ロキはしばらく点検中のサイファーを見つめていた。 
「ロキしょーい!」
 その時、彼の右手の方から誰かが走ってきた。
「ん?その声は・・・アリスさんですかぁ?」
「はい!」
 明るい笑顔のアリスがいた。
「どうしたんですか、こんな夜遅くに。」
「眠れないから散歩していたんです。」
「そうですか。今回の任務はアリスさんにとって初めてですからね。」
「はい。ところでロキ少尉はまだ眠らないのですか。」
 ロキはニコッと笑った。
「・・・私も眠れないんですよ。」
「そうなんですか。私は、しばらく回りましたら特寮に戻ります。」
「気をつけて下さいね。あと、タメ口でいいですよ。」
「じゃぁ、任務以外はそうさせていただきます。お休みなさい、ロキさん。」
 アリスは去っていった。
「さて、そろそろ特寮に戻りますか。」
 
 第7プラント軍事特別寮 DD−103
 ロキはベットの上に座り、ふと時計を見た。時計は11:45分を表していた。
「こんな時間か・・・」
 彼はしばらく第6プラントを出発する前のことを回想した。
−回想−
 サッチェル マウス(第6プラント)
 第6部隊休憩室を出てオペレーター室への廊下を歩いているロキとウリエル。
「本当にいいでんすかぁ。大したことではないですよ。」
「しつこいなぁ、そんなに気にすんなって。いやなのか?」
「別にそうではないですけど。」
「・・・・なぁ、こっちに配属してきた新人のことだけどさ・・・」
 ウリエルは笑みを浮かべながら話し始めた。
「アリスさんがどうかしたんですか。」
「あいつ、なんか凄いと思わないか。」
「・・・・そうですねぇ。ジャックさんと戦って重傷は負わなかったですしね。」
「いや、俺の勘だがあいつの実力は俺達より上なのかもしれないと思うんだ。」
 ウリエルは止まった。
「・・・・。」
「いつか、ジャックの野郎と互角に戦えるんじゃないかな・・・」
「・・・ずいぶんとお気に入りですね。」
「まぁな。結構可愛かったし・・・ね。」
冗談じみたことを笑いながら言うとウリエルはポケットからタバコを取り出し火をつけずにくわえた。

「・・・・僕たちより上の実力か。」
ロキはそう呟くとベットに寝そべった。

 翌朝 第7地下格倉庫
 4人のサイファーは最終点検にはいっていた。
 軍事特別寮から格倉庫への通路をロキは歩いていた。
「ローレヌ隊長、おはようございます。」
 ロキの向かって反対側からローレヌが歩いてきた。
「おはよう。・・・・ロキ、少し疲れているようだけど大丈夫か?」
 心配そうにローレヌは言った。
「大丈夫ですよ。ただ、昨夜は眠れなかったですけど。」
「おっはようございまーす!!」
 二人の背後から威勢のいい声がした。振り返ると、アリスが二人のところまで走ってきた。
「おはよう、アリス。」
「おはようございます。相変わらず元気ですね、アリスさん。」
 アリスが走ってきた向かい側から不機嫌な様子でウリエルが歩いてきた。
「ウリエル曹長、おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
「不機嫌ですね。どうしたんですか。」
「まぁね。廊下ですれ違ったやつがいきなり睨み付けてきたんだよ。別に何もやってねーのに。」
「私たちの部隊を快く思う人は少ないですからね。敵意を露骨にだす人も中にはいるでしょう。」
 ロキはおっとりとした口調で言った。
「いくら快く思われなくても、すれ違っただけで睨むか普通!」
 ウリエルはやや八つ当たりするように言った。
「・・・・そうそう、第3プラントまで派遣パイロットを同行させて欲しいという依頼があったのよ。」
「また、何でですかぁ?」
 ロキはちょっと驚いたように言った。
「そのパイロットは第3攻撃大隊基地に昨日、帰還する予定だったようなんだけど、彼の機体はマシントラブルに遭って今日になったの。また、彼一人を残してその他(彼のいた小隊の)の人たちは帰還したからなの。」
「そんなに急がなくてはならなかったんですか。」
「そうでもないようだけど、話によると彼自ら小隊に先に帰還して下さいというようなことを言ったそうよ。」
「ずいぶんと献身的ですね。」
「・・・地球に行くところだし、唯一手の空いているのは私たちだから一応了解したわ。」
「そうなんですか・・・・・おや?」
 ロキは誰かがこちらにやって来たのを感じた。
「あなた方が第6サイファー部隊(高機動VR大隊第6部隊の通称)の人ですか。」
 灰色がかった髪に緑のメッシュをした青年が話しかけてきた。
「そうですが、あなたは?」
「僕の名は「シルヴァ・K・ミシュア」です。あなた方の部隊と同行させてもらう者です。ちなみに階級は軍曹です。」
「私はこの部隊の隊長でありますローレヌ・エリカ・ジャンヌスです。よろしく、シルヴァ軍曹。」
「こちらこそよろしくお願いします。ローレヌ少佐。」
 ローレヌとシルヴァは握手をした。
「こちらの少女はアリス・ロバート軍曹、その右手にいるのはウリエル・ガゼフス曹長・・・」
 ローレヌは紹介し始めた。
「シルヴァ軍曹、よろしくお願いします。」
「よろしく。」
 アリスとウリエルは軽くお辞儀をした。
「よろしくお願いします。」
「そして、私の隣にいるのはロキ・マックス少尉。」
「よろしくお願いします。」
 シルヴァはロキの名は聞くと表情が険しくなった。
「少尉・・・・・よろしくお願いします。」
 彼はその場から立ち去ろうとした。
「あの・・・どこへ行くのですか?」
 アリスはすかさず彼に尋ねた。
「・・・・出発時には戻ります。」
そ う言うと彼は立ち去っていった。
「あのう・・・・私、何か悪い事言ったでしょうか。」
 ロキは自信なく尋ねた。
「言ってないと思いますけど・・・。」
「まっ、気にすんなって。」
「・・・・そうですか。」
「じゃぁ、出発の準備を完了する次第連絡する。その間はしばらく自由にしていいわよ。」
「はい。」
「さてと、休憩室に行くか。」
 4人は散らばった。
 
 アリスが廊下を歩いていると、椅子に座って窓から見える景色を眺めているシルヴァがいた。
「あ・・・・シルヴァ軍曹。」
「ん?」
 シルヴァは振り向いた。
「・・・・大変ね。」
 アリスはシルヴァの隣に座りながら何気なく言った。
「何が?」
「だって、あなたは仲間と帰れなくて寂しくないんですか。」
「別に、そんなことは気にしていない。ただ、僕は単なるマシントラブルで他人の足を引っ張りたくないから。」
「ふーん。」
「あと、アリス、軍曹はつけなくていいよ。ずいぶん気を使っているようだけど・・・」
「そうですか、じゃぁ、そうします。・・・・ところで、何でロキ少尉にあんな態度をとったの?」
「何のこと。」
 シルヴァはとぼけた。
「だって、嫌ってるみたいだったもん。」
「・・・・。」
「あの人はいい人だよ。」
「アリスは知らないんだよ。あの男の正体。」
 シルヴァはぽつりと言った。
「・・・・え?」
「・・・何でもない。」
 そう言うとシルヴァは立ち上がった。すると、ぽとりと手帳みたいなのが落ちた。
「あれ、何だろう。」
 アリスはそれを拾うとつい中身を見てしまった。そこには穏やかな笑顔の女性の写真があった。年齢は20〜23歳のようである。
「この女性は?」
「あっ、見るな!!」
 赤面したシルヴァは慌ててそれを取った。
「・・・ねぇ、誰?」
 アリスは悪戯っぽく言った。
「関係ないだろ!」
「なんでー?いいじゃん、へるもんじゃないし。」
「うるさい!」
「お願い!」
「だめ。」
「教えるまでついていくもん。」
「・・・・・・ちょっとだけならいいか。」
 アリスのあまりのしつこさにシルヴァは観念したようだ。
「わーい!」
アリスは無邪気に喜んだ。
「・・・僕の姉さんなんだ。」
「お姉さん・・・?」
「ああ、去年亡くなったんだ。」
「・・・ごめん。」
「別に気にすることないさ。」
 シルヴァは去って行った。

 第7休憩室
 丸い机を囲んで椅子に座って話しているローレヌ、ロキとウリエル。
「まだ気にしているのか?」
 顔色が浮かないロキを心配するようにウリエルは話しかけた。
「・・・・ええ、違うと言ったら嘘になります。」
「ロキ、もしかして彼のことを知っているの?」
 ローレヌは感づいたように言った。
「・・・・・。」
 ロキの表情は思い詰めたようだった。
「ロキ・・・・いや、話したくないならいいさ。」
 ウリエルはこれ以上聞くのはやめようと思った。
「・・・すいません。あなた方を信用していないわけではないんです。ただ、僕の中でも整理がつかないんです。」
 ロキは休憩室を去ってしまった。
「悪いこと言ってしまったかしら・・・・」
 ローレヌは罪悪感を感じていた。
「・・・・しばらくの時間が必要みたいだな。」
 ウリエルはそう言うとしばらく黙り込んでしまった。

 ロキが休憩室を出るとちょうどシルヴァが歩いてきた。無論、二人の間には険悪な空気が漂っていた。
「ナーシャ・M・ミシュアという方を知っていますよね・・・・」
「・・・・・!!」
 ロキはその名前を聞いたとたん動揺しはじめた。
「誰が許しても・・・・僕はあなたを絶対に許しません。」
 シルヴァはロキへの敵意を剥き出しにして言った。
「あなたがナーシャさんとはどのような関係か存じませんが・・・・・私はあの方への罪の償いは精一杯しています。」
「・・・嘘だ!!嘘に決まっている!!!」
 ついにシルヴァは抑えていた怒りを爆発させた。
「嘘ではありません!!」
 ロキも必死になって言った。
「黙れ!!・・・僕の姉さんを・・・・僕の姉さんを殺した奴の言い訳なんか聞きたくない!!」
「・・・・・。」
 ロキは何も言えなかった。
「・・・・お前を殺してやりたいくらいだよ!」
 シルヴァはそう言うと走り去っていった。
「ロキさん・・・・」
 偶然二人の話を聞いてしまったアリスは恐る恐る話しかけてきた。彼女自身、それはショックなことであった。
「・・・・アリスさん。」
 ロキは何でもなかったように振る舞うが、状況がわかっているアリスには通用しなかった。
「嘘ですよね、ロキさんがまさか・・・・そんなことするわけ・・・・」
「いいえ。事実です。」
 ロキは静かに言った。
「・・・・・・。」
「・・・・私は今でも殺した事実は忘れたことはありません。そして、その罪の償いは精一杯しています。・・・それだけは信じて下さい。」
「ロキさん・・・・お願いです、どうかその話していただけませんか。」
 アリスは思いきったように言った。
「・・・・・。」
「・・・ロキさん!・・お願いします!」
「・・・・・・・わかりました。ここで話すのも難ですから格倉庫へ行きませんか。」
 二人は格倉庫へ行った。

 地下格倉庫
 点検を終えたサイファーが静かに出動の時を待つように立っていた。
「・・・・実は、私はRN社にいた者だったんです。」
「え?!そうだったんですか。」
「ええ、去年の11月に辞めて、DN社に就いたんです。」
「それって、シルヴァのお姉さんが死んでからですか。」
 性格からかアリスはストレートな言い方をした。
「そうですね・・・・あれはここ(第7プラント)で働いていた頃のことなんです。」
 ロキはその出来事を話し始めた。

 V.C.a1年 11月 リファレンス ポイント/第7プラント
「ロキ、任務だ。何でもパブリック ポートにDN社の野郎が侵入してきたみたいだぜ。」
「そうですかぁ。今行きます。」
 暇つぶしに読書をしていたロキは声を聞くと階段を駆け降りてきた。そこには二人のパイロットが待っていた。
「・・・・相変わらず緊張感ないなぁ。」
「そうですかぁ、一応緊張してますよ。」
「ははは・・・・さてと、行くか。」
 ロキを含む三人のパイロットはそれぞれのVRに搭乗した。(テムジン・グリスボックス・サイファー)

 パブリック ポートに着くとそこにはテムジンとドルドレイ、サイファーの3機がいた。
 敵は分散すると、各味方のVRに接近してきた。つまりそれぞれが一騎討ち状態になったのである。ロキに接近してきたのは同型機種のサイファーである。
 彼は相手の攻撃を回避すると、ダガーを放ち4本に分裂するビームを放つと相手との距離を縮めた。
 相手はジャンプするとS.L.Cダイブをしてきた。彼はこれを回避すると反撃に出た。
 相手はダッシュでそれを回避したとたん、倒れてしまった。
「?!」
 ロキは反撃できたのかと最初は思ったが、モニターに「HIT」という文字がなかったので、不思議に思った。
 相手はいつまで経っても起きあがらない様子なので、気になった彼は相手に近づいた。
 近接すると、相手はいきなり起きあがって攻撃した。(両トリガーで近接攻撃)
 ロキは突然の攻撃をまともに受け、転倒した。彼は反撃しようと起きあがったが、目の前の光景に愕然とした。
 遠くではわからなかったが相手のサイファーの装甲は酷く傷ついたのだ。相手は立て膝になった状態で動かず、今にも倒れそうだった。そして、武器を持つ手も震えていた。
「点検していなかったんですか?」
 ロキは外部スピーカーから相手に声をかけた。
「・・・・・。」
 相手は予想外な事に躊躇しているようだった。
「・・・申し遅れました、私の名はロキ・マックスです。今のところはあなたを攻撃する意志はありませんよ。」
「・・・・ふ、私の名はナーシャ・M・ミュシア・・・」
 相手は震える声で自らの名を言った。
「ナーシャさんですかぁ。」
 ロキの呑気な声にナーシャは呆気になった。
「何か変ですかぁ?」
「・・・・貴様のような人に会ったのは初めてだ。」
「そうですかぁ。」
 しばらく彼女は黙り込み、そして意を決したように口を開いた。
「・・・・・頼みたいことがある。・・・といっても貴様と私はお互い敵同士だからな・・・・」
 彼女はそれは無駄だと思って、話を投げ出した。
「何でしょうかぁ?」
 ロキの意外な反応に彼女はまた呆気になった。
「僕はこう見えても敵対心は強くないですよぉ。」
「ふふ・・・見なくてもわかる。それにしても、それでよくVRのパイロットが出来るな。」
 彼女は軽いツッコミを入れた。
「そうですね。」
「・・・・・・私は・・・もうすぐ・・・」
「もうすぐ・・・?」
「死ぬんだ。」
「え?!」
 唐突なことにロキは驚いた。
「死ぬって・・・どういうことですか?」
「治る見込みがない病気で・・・・余命はわずかだとさ・・・」
「・・・なぜ大切な時間を無駄にするようなことをするのですか。」
「・・・・今しかチャンスがないんだ。死ぬ場所ぐらい選んだっていいだろ?」
「私はあなたではないですから何も言えませんがね・・・」
「・・・・・・。」
 二人の間には長い沈黙があった。それを破ったのは仲間のパイロットの一言だった。
「ロキ!何やってんだ、早くとどめを刺せ!!」
 それはロキにとって出来ることではなかった。もうすぐ死ぬ人にとどめを刺せす事なんて・・・・。ロキの優しさは厳しく言えば兵士としては致命傷なのである。ナーシャはそんな彼を気の毒に感じていた。
「・・・ロキ、私を殺してくれ。」
「?!」
 ロキは気が動転しそうだった。
「頼む!最期は・・・空の中で・・・」
 彼女の声は今にも途絶えそうで、息も絶え絶えだった。病気が悪化したのだろう。
「ナーシャさん・・・家族の方々を悲しませるのですか。」
「・・・・・結局は・・・別れるのだ・・・悔いはない!」
 息は絶え絶えだったが彼女は毅然としていた。
「・・・・・わかりました。」
 やるせない気持ちでの返答だった。
「すま・・ない・・・な。」
 彼女は2・3歩下がると、2段ジャンプをした。ロキも後を追ってジャンプした。そして、彼女との距離が狭まった時、彼はビームソードで胸部を突き刺した。
「ロキ・もう・・一つ・・頼み・・たい・・・ことが・・ある・・シ・・・ル・・ヴァ・・・シルヴァを・・・見守って・・・やっ・・てく・・・・れ・・・」
 ナーシャはそう言い残すと息を引き取った。
 ロキは墜落したDNAサイファーをしばらく見つめていた。他の敵機は撤退したようだ。

 地下格倉庫
「後でわかったのですが、彼女は病室を勝手に出ていって、サイファーに搭乗したんです。しかも、修理が始まったばかりのをね。」
「でも、ナーシャさんが死んだのはロキさんのせいじゃないよ。」
「・・・・私は、治療すれば生き延びることの出来る命を奪ってしまったんです。」
「私は、ここに来たばかりだからよくわからないけど・・・生き延びるだけが幸せじゃないと思う。短くなったって、やりたいことをやって死ぬことになったとしても本人は幸せだということはあると思いますよ。」
 笑顔でアリスはロキを励ました。
「アリスさん・・・・」
「ロキさん、言ってたじゃないですか。私はあなたじゃないですから何も言えないって。自分の思うことと相手の思うことは違うし、人の気持ちをなんだかんだ言うことは必要ないと思いますよ。」
 すると、どこからか発信音が聞こえてきた。モニターが映る場所へ二人は向かった。
 モニターにはローレヌの姿が映っていた。
「アリス、ロキ、ちょうど良かったわ。RNAが侵入して来たの。直ちにシルヴァと共に出動して。」
「了解!!」

 パブリック ポート
 シルヴァは相変わらずロキへの敵意を剥き出しにしていた。それに対してロキは彼の態度に困惑していた。
「シルヴァ・・・いい加減、ロキ少尉のこと許してあげようよ。」
 アリスはこの状況をなんとかしようとシルヴァを説得した。
「・・・アリス、少尉になんて言われたか知らないが、僕の姉さんを殺したことは許せない。」
 しかし、彼は頑固に意志を変えなかった。
「シルヴァ、それで本当にお姉さんの気持ちわかっているの?」
 アリスは彼の頑固さに呆れていた。
 すると前方からRNAのグリスボックスの集団が現れた。
「うわぁ、対応できるかなぁ。」
 アリスは自信なさそうな声で言った。
「大丈夫ですよ。アリスさんの実力はウリエルさんのお墨付きですから。」
 ロキは穏やかにアリスを励ました。
「ウリエル曹長が・・・?」
「来る!」
 シルヴァは叫んだ。グリスボックス集団はホーミングミサイルで攻撃してきた。三人は分散してそれを回避した。
 ロキは後ろダッシュスライディングショットのホーミングビームをだした後、ダガーを撃った。そして、ダガーが相手にヒットすると前ダッシュで相手に滑り込むように接近し、(レフトトリガー)の近接攻撃をした後キャンセルし足払いをした。
 相手がダウンした後、後方から来た敵との距離を前ダッシュで少し離して漕ぎで旋回し、左回りのクイックステップ近接で攻撃した。その敵は近接攻撃を仕掛けていたようで、回避されて隙ができ、まともにロキの近接攻撃を食らったのである。
 彼の戦闘スタイルは、遠距離で様子を見て、接近したら積極的に相手を攻撃するといった普段のロキからは考えられない、近接主体の戦法なのである。
「・・・・すごい。」
 アリスはその戦いぶりにただ驚くばかりであった。
「アリス!よそ見してる場合か!」
 シルヴァは檄を飛ばした。
「あっ、そうだった。」
 アリスは慌てて前方を見た。既に敵は迫っていた。アリスはしゃがみレーザーを放とうとした時である。
 ガシャン!!
 グリスボックスの頭上からRNAサイファーが降りてきて、そのままグリスボックスの上に乗ったのである。
「アリス!待たせたわね。」
「は?」
 アリスはわけが分からなかった。
「忘れているの?!このジュノーン・ローゼスを!!」
「あっ、ジュノーンさんですか。・・・それにしてもこ、これは・・・・」
 アリスは思い出したように言うと、目の前の光景をじっと見つめた。ジュノーンが高飛車な態度でグリスボックスの頭部に片足をかけ、手を腰にやっている光景は彼女にとって何とも言い難いものであった。
「さてと・・・・」
 ジュノーンはグリスボックスから降りた。
「約束通り、一騎討ちで勝負ですわよ!」
「隊長、ここは私達に・・・」
「いいえ、あなた達が行って下さいませ。」
「隊長!!」
「お黙り!」
「わかりました。」
 数機のグリスボックスは前進していった。
「手加減なしでいきますわよ。」
 ジュノーンは前ダッシュバルカンをだしてきた。アリスはそれをジャンプで回避すると横ダッシュダガーをだした。すると、ジュノーンは4つに分裂するビームを放してきた。
 アリスはこれに当たり、墜落した。ジュノーンは空中前ダッシュ近接で追い打ちしてきた。しかし、アリスはわずかの差で起きあがってしまったので、ダメージを受けなかった。そして、連続近接攻撃(ライトトリガーからしゃがみレフトトリガー)で反撃に出た。ジュノーンは一発目はガードしたが二発目で転倒された。さらにその隙を狙って追い打ちされた。
「・・・・くっ。」
 ジュノーンは早く起きあがって近接をしようとしたが、間合いを取られてしまった。

 その頃、シルヴァはグリスボックス2機を擱座させていた。。しかし彼一人で残り数機を擱座させることはきついものがある。
 そこでシルヴァは仲間が来るまで回避に専念することにした。しかし、ダッシュしている間に背後を取られマイクロミサイルで転倒され、囲まれてしまった。
「シルヴァ!!」
 アリスは助けに行こうとするのだが、ジュノーンにせき止められてしまう。
 グリスボックスが一斉にシルヴァを攻撃しようとした時である。ライトターボのホーミングビームが飛んできて一機のグリスボックスに当ると、今度は他の一機のグリスボックスが転倒した。
「?!」
 爆風の中、シルヴァの目の前に誰かが背を向けて立っているようだった。
「ロキ少尉!!」
 アリスの歓喜する声が聞こえた。そこにはシルヴァをかばうように立っているロキがいたのである。ロキは彼を抱きかかえると、ダッシュでグリスボックスのいる範囲からかなり離れていった。
「・・・少尉、それで許してもらえるなんて思わないで下さいよ。」
「別に、私はそんなことは思っていません。これはナーシャさんのためにやっているんです。」
「・・・どういうことだ?」
「あなたには信じてもらえないと思いますが、彼女は私に殺してくれと言いました。そして、死んでも悔いはないと。」
「・・・・・。」
「病室を抜け出して戦ったのですから本心でしょう。不治の病と嘘をついていましたが、きっと、治療すると彼女は二度とVRに搭乗できなるのでしょうね。・・・だから、あんな無理をしたんですよ。確かに彼女を殺すことはあなたがたを悲しませることになります。」
「・・・・・・。」
「最後にナーシャさんはあなたを見守ってやってくれと言いました。だから、あなたの助けになることが私の罪の償いなんです。」
「姉さん・・・・・」
 彼はしばらく考え込んだ。
「少尉、協力してもらえますか。」
 そして、彼は意を決したように言った。
「もちろんいいですよぉ。」
 ロキは普段ののほほんとした声で応えた。
 二人は追いかけてきた数機のグリスボックスの方へ走り出した。
 ロキはグリスボックスの攻撃を回避すると、先頭のグリスボックスに連続近接攻撃(レフトトリガーからキャンセルしてジャンプ近接両トリガー)をあびせた。そして、右側の敵を右回りクイックスッテップ近接で攻撃した。
 シルヴァは中間距離からレーザーと7WAYダガー、ホーミングビーム(ライトターボと4つに分裂するビーム)で援護した。

 ジュノーンとアリスの戦いはいたって平行線の状態だった。
 そこに上空からレーザーが放たれてきた。ジュノーンがこれを回避して上を見ると、そこには2機のDNAサイファーがいた。
「アリス、大丈夫?」
「ローレヌ隊長!」
「アリスちゃん、待たせてごめんね。」
「ウリエル曹長!」
 二人はアリスの後ろ側に降りた。
「もう!!何でこう戦いに邪魔が入ってくるのかしら!」
 アリスとの勝負を邪魔されたことに腹を立てるジュノーン。
「そう怒るもんじゃないぜ、お嬢さん。」
 ウリエルはからかうように言った。
「お黙りなさい!!!・・・・全員撤退するわよ!!」
「はっ!!」
 ジュノーンと生き残った(擱座していない)グリスボックスは去っていった。
「私達の出る必要はなかったみたいね。」
「そろそろ戻りませんか。」
「そうね。」
 五人は帰還した。

 地下各倉庫
 点検が終わり、静かになった格倉庫に一人、サイファーを見つめているロキ。
「・・・ナーシャさん、私はサイファーに乗ることにもう迷いません。そして、あなたの弟さんはあなたのように意志が強い方です。将来が楽しみですよ。」
 ロキは穏やかな表情で彼女(ナーシャ)に話しかけるようにサイファーに話していた。
「ロキ、どうした。」
 そこへローレヌが後方から来た。
「ローレヌ隊長。あの・・その・・私の話に付き合ってもらえませんか。」
 ロキは拙い口調で言った。
「別に構わないけど。」
「ありがとうございます。・・・・私の搭乗しているこのサイファーの前パイロットはシルヴァのお姉さん、ナーシャさんなんです。」
「ナーシャって、ナーシャ・M・ミュシアの事?」
「そうです。彼女のことを知っているのですか?」
「ええ・・・・彼女は誰よりも不屈の精神を持った勇敢なパイロットとして大隊の中では一部だけど有名だったけど、去年頃、病気の状態で無理に戦ったことが原因で結果的に戦死してしまったの。彼女とは任務の関係で一度だけ顔をあわせたことはあったわ。」
「そうなんですか・・・私とは正反対ですね。」
「・・・?」
 ローレヌは彼の言った意味がわからなかった。
「・・・ローレヌ隊長、私が彼女のサイファーに搭乗するのは運命づけられたことなのでしょうか・・・・彼女と出会ってからRN社を辞め、こちらにきたとき初めて搭乗することになったのは彼女のサイファーだったんです。」
「・・・確かに不思議な縁ね。アリスもあなたとは似ている境遇じゃないかしら。」
「そうですね。ただ、私と違うところは迷いのあるかないかですよ。」
「迷い?」
「ええ、私がサイファーに乗ることになったのは何も夢中になれるものがなく、これといった目標もなくて刹那主義になっていた頃のひょんなことだったんです。」
 ロキはその頃のことを話し始めた。
「偶然RN社で新しく開発されたVRの機動演習でいい成績が残せたのでパイロットに抜擢されたんです。夢や自分の意志でなったわけではなくて自然の成り行きでしたから生き甲斐は感じませんでした。・・・残るのは自分は何のために生きているんだろうか、これでいいのだろうかという思いだったんです。」
「・・・・・。」
 ローレヌはサイファーが待機している方を向いたまま、彼の話を聞いていた。
「そんな思いでやっていましたから、人が死んでいくのを見るのは絶えられなかったです。何の夢や意志を持っていない者が人の生き甲斐を奪うのですからね。その中でナーシャさんの死は衝撃的でした。あの時、私の中で何かが動き出した感じがしました。」
「・・・・目標が決まったって事?」
「いいえ。でも、受け身になるのはもうやめようと決意しました。そして、シルヴァさんを見守ることで目標を探そうと思ったんです。」
「なるほどね・・・・」
「・・・・今はやっと生き甲斐が見つかったというところです。」
 ロキはニコリと笑った。
「ふふ・・・ところで戦いが終わってからシルヴァ軍曹とずいぶん仲良くなっていたじゃない。何があったの?」
「さぁて、何ででしょうかね。・・・それにしても、もしかしたらと予感はしていたのですが、本当に彼がナーシャさんの弟さんだとは思いませんでしたね。」
 二人はお互いに顔合わせると微笑んだ。

 ローレヌが去り、再び一人になったロキ。
「・・・・これからが本当の出発ですよ。」
 自分に言い聞かせるようにつぶやくとサイファーを搭乗するために歩き出して行った。

【第二章 ETERNAL WIND〜鳥になる日〜終】

次回『第三章 STORM〜SHINE〜』
 地球に着いて休もうと思ったら、そこにもRN社VR?!ちっとは休ませろよー。
 んっ?お前は誰かって?俺の名はウリエル。まっ、こんな状況でもねかわいい子が一人以上いれば苦にならないってことよ。そんな話はおいといてと・・・・。
 ムーニーバレー(第三プラント)に着くとそこは既にRNAの領地になっていたんだ。そんでもって、そこの領地奪回することになったんだけど・・・って、機体の数が少なくて本当に大丈夫なのか?! 

<キャラクター紹介 2>
ロキ・マックス
年齢:30歳 性別:男性 血液型:A型
精神コマンド:補給・愛・友情・激励・手加減・脱力・(覚醒) ( )は隠れコマンド。突発的に出るコマンドなので意識的には出せない。
 去年頃に部隊に配属されたパイロット。就任してから間もなくして士官クラスに昇進した程の実力を持つ人物。(これは非常に珍しいこと)接近戦が得意で、前線で戦っている。
 性格はいたっておっとりとしていて、心優しく寛大である。のんびりとした口調が特徴的で、周りから緊張感がないと誤解されることもある。