V.C.a2年 11月  第6プラント/サッチェル マウス(高機動VR大隊第6部隊) 
 一人の黒髪の女性がサッサッと通路を歩いていた。この女性の名は「ローレヌ・エリカ・ジャンヌス」。均整のとれた顔立ちの彼女はサイファー大隊の中でもトップクラスの実力の持ち主である。元々、彼女は主力部隊にいた人物だが、任務の関係でこちらに戻ってきたのである。
「ローレヌ隊長、405号機の方はどうなっていますか。」
 格倉庫から戻ってきたローレヌに一人の薄茶の髪の青年が尋ねてきた。彼の名は「ロキ・マックス」。ローレヌの補佐役的存在である。
「ほぼ全壊状態だったようだけど、奇跡的に稼動できるそうよ。」
「そうですか・・・・よかったですね。」
 彼はのほほんとした口調で言った。
「よかったって・・・・・パイロットは復帰できるような状態ではないのよ。」
「そうなんですか。しかし、そのためにあなたが来たのではないですか。」
「いいえ。私がここに呼び出されたのは、任務の関係で一時あなた方の部隊の隊長になって欲しいということなの。」
「じゃぁ、405号機は誰が搭乗するのですかね。」
「・・・・・・話によるとここに新しく配属される新人が搭乗するようだけど・・・・。」
「ほぉ。ですが、405号機には高度のカスタマイズがなされているという話なんでけど・・・大丈夫なんですか。」
「・・・・・・。その本人の実力にもよるわね。」
「なるほど。」
 ロキは手をポンと叩いた。
「それで、大隊内のトップクラスの実力をもつ隊長を呼び寄せたのではないですか。」
「・・・・いくらトップクラスといわれても私より上の実力者はいるわよ。」
 ローレヌは苦笑した。
「そうですか?まぁ、仮にそれだったとしても性格上、隊長が一番妥当だと思いますよ。」
「・・・・結局、便利屋扱いなのね。」
「というか、世話役です。困難で危険な任務は比較的彼らは受けてくれますよ。」
「・・・・任務意識は決して真面目とはいえないけどね。」
 そもそも高機動VR大隊の中でも特に第6部隊は、自分の行動に絶対の自信を持つ人が多く、その障害になるものはひどく嫌う傾向にある。そのため、任務は極端な話、制限がない方が彼らとしてはいいのである。また、困難で危険な任務を好むのはその方が面白いからというゲーム感覚からで、決して使命感からではないのである。
「まぁ、第6部隊に配属される新人の面倒を見てくれるのは隊長のいる私たちの部隊くらいですよ。」
「・・・・クセのあるところは相変わらずね。」
 ローレヌは少々呆れ顔だった。
「本物だぁー!やっぱ実物の方が断然カッコイイわね。」
 格倉庫から少女の声がした。
「おや?」
「誰かしら・・・・聞き慣れない声だけど。」
 二人は格倉庫の入り口の方に振り返った 。しばらくして、栗色の髪をした少女がでてきた。彼女はローレヌ達に話しかけてきた。
「あっ、あの、ローレヌ中佐はどちらにいますでしょうか。」
「私ですけど。ところであなたは?」
「はい! 私はこちらに新しく配属してきました『アリス・ロバート』と申します。」
「おや、あなたが新人さんですか。」
 ロキはにこやかに応じた。
「はい! 今後ともよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。」
「私の名はロキ・マックスといいます。よろしくお願いしますね。」
「・・・・あっ、私は用事がありますのでこれで失礼します。」
 アリスは通路を勢いよく走りだした。
「足元に気をつけてね。」
「きゃぁ!!」
 ドサッッ!!
 アリスは足元を滑らして転んだ。そして、息つく間もなく彼女は起きあがり走り出して行った。
「ずいぶんと元気な方ですねー。」
「そうね。・・・・ロキ、そろそろ行かないか?」
「そうですね。」
 二人はオペレーション室へ向かった。

 第6プラント軍事寮 AJ−42
 パタパタパタパタ・・・・
「えっと、どこだっけ?114423号室は・・・・」
 ドンッ!
 誰かとぶつかったようだ。
「おっと、大丈夫かい。」 男性の声がした。
「・・・ご、ごめんなさい。」
 アリスが顔を上げると、黒っぽい紫の髪に白のメッシュをした青年が彼女を見つめていた。
「君、見かけないけど・・・・新人?」
「はい。」
 アリスは肩に触れていた青年の手を軽く払うと少し離れ敬礼をした。
「こちらに配属してきましたアリス・ロバートと申します。」
「アリスちゃんね。・・・ずいぶん可愛いね、君。」
「あ、ありがとうございます。」
 アリスは赤面した。冗談だと彼女は勿論、思っているが言われてみると嬉しいものである。
「気をつけてね。じゃぁね。」
 青年は少し歩いて止まると、首を彼女の方に向いた。
「あっ、僕の名は『ウリエル・ガゼフス』。よろしく。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
 ウリエルはアリスの行く方向とは逆の方向へ歩いて行った。
「・・・・えっと114423号、114423号・・・・」
 アリスは自分の部屋の番号をまた探し出した。

 第6格倉庫
「アリス、あなたの搭乗する405号機は十分稼動できる状態よ。あとは、あなたの実力次第ね。よろしく頼むわよ。」
 ローレヌはモニターを通してアリスに話した。
「はい!・・・今回の作戦内容をお聞かせ下さい。」
「リファレンス・ポイント(第7プラント)に侵入してきたRNAのVRを退却させるかまたは破壊すること。情報によると敵機は私たちと同型のRVR−42 サイファー。数は2機。」
「了解。直ちに行動を開始します。」
 モニターの映像は消えていった。

リファレンス・ポイント(パブリック ポート)
「お待たせいたしました。」
 障害物の後ろで待機していたローレヌのところにアリスがやって来た。
「アリス、初乗りだけど機体になじめそう?」
「はい、なんとか。」
 ガシャン、ガシャン・・・・・・
 2機のRNAサイファーがアリス達のいるところのちょうど反対側に降りた。
 
「あら、出迎えにしては寂しいわね。」
 RNAサイファーに搭乗している一人はいやみっぽく言った。
「別に、そんなことはどうでもいいんだ。だいいち、はなから俺はこんなくだらん任務をする気はないんだよ。」
 もう一方は愚痴っぽく言った。
「相変わらずねぇ・・・・」
「さっさとこんなこと終わりにしたいからな。・・・足手まといにはなるなよ。」
「失礼しちゃう!」
 2機はアリス達との間合いを狭めていった。
「私たちも行くわよ。」
「はい。」
 アリス達も敵機に向かっていった。
 お互いの間合いが至近距離になると、一機のRNAサイファーの行動が豹変した。
「405号機・・・・。」
 そうつぶやくとアリスの方へ猛攻撃をしてきた。
「えっ?!なに?」
 アリスの頭の中は真っ白になった。
「ちょっと!その機体は私がターゲットにしていたのよ!!」
 パニック状態になっているアリスに追い打ちをかけるようにもう一方のサイファーが彼女に接近してきた。
 それを見たローレヌはこの状況を変えようと、横ダッシュスライディングショットのダガーを撃った。2機がアリスに気を取られていたようで、ダガーはみごと命中した。
「・・・足手まといになるなと言っただろ。」
 一機のRNAサイファーがむっとした口調でもう一方のRNAサイファーに言った。
「じゃぁ、もう一機はあなたがやってよ。」
「やだ。」
「・・・・・。(−−*)」
 2機がこうして言い争っている間にもローレヌはホーミングレーザーを撃った。しかし、 これは回避された。しかも彼らはお互いに標的を変える意志など見せなかった。
「ちょっと!聞いてるの!! あの機体は・・・・」
 一機のRNAサイファーはしつこく仲間のサイファーに言っていた。
「黙れ。」
「なによ!!(−−**)」
 アリスはなんとか体勢を整えようとするが、相手の休まぬ攻撃に回避するのが精一杯だった。
「アリス、聞こえる?」
 その時、ローレヌの声がした。
「ローレヌ隊長。」
「敵はあなたにかなり気を取られているみたい。・・・2機をなんとか端まで引き寄せてみて。あとは私ができるだけフォローするわ。」
「はい!」
 アリスは無我夢中で前へダッシュした。
「・・・・違う。」
 一機のRNAサイファーはそう言うと止まり、レーザーを撃った。
「?!」
 アリス機はレーザーに当たり転倒した。
「アリス!!」
 ローレヌはダッシュ近接(ライトトリガーの)で前にいた(アリス機にレーザー攻撃していない)RNAサイファーを転倒させると、アリスの方へダッシュした。
「405号機もここまで堕ちたか・・・・。」
 アリスの目の前にはRNAサイファーが威光を放って立っていた。
「・・・・・。」
 アリスは彼のあまりの威厳さに体が動かなくなった。
「アリス!!」
 ローレヌは低空でS.L.Cダイブをしてきた。これは彼に攻撃するわけではなく、アリスとの距離を縮めるためである。
「・・・・・ジャック・ロイドさん。」
 ローレヌはS.L.Cダイブで開いたアリスと敵機の距離の間に降りた。
「・・・ローレヌか。」
 ジャックは静かに言った。
「・・・あいつは?」
「まだ復帰していません。」
「そうか。・・・・・あいつのいない405号機などに勝っても意味がない。帰還する。」
「ずいぶんと執念深いのね。」
「当然だ。あいつには屈辱を受けたからな。」
 彼はサイファーを変形させて飛び去っていった。
 こうなると取り残されたもう一人のRNAサイファーのパイロットの方は怒りのあまりヒステリィックになっていた。
「ちょっとーーーーー!! 勝手に行くんじゃないわよーーーーーーーーー!!!!! この銀ハリネズミーーーーーー!! ・・・・ハアハアハア・・・・・・・」
 しばらくして、そのパイロットは落ち着きを取り戻し、ため息をついて腰に手をやった。
「・・・・そこの405号機とやら。」
「えっ?! 私?」
 アリスはちょとんとした。
「そうよ。いっておきますけど、あなたのお相手はわたくし『ジュノーン・ローゼス』ですわよ。お忘れなきように。」
「はぁ・・・・ジュノーン・ローゼスさんですか。」
 アリスは呆気にとられていた。
「あなたは?」
「あっ、私はアリス・ロバートと申します。」
「アリスね。覚えておくわ。まっ、今回はあなたにとって運良く邪魔が入ったけど、次からは覚悟することね。」
 ジュノーンはそう言い残すとジャックと同様の形で去っていった。
「帰還するわよ。」
「・・・・はい。」
 アリスとローレヌもパブリック・ポートを去った。(変形させて)

サッチェル マウス(第6プラント)  第6部隊休憩室
「アリスさ〜ん。大丈夫でしたかぁ?」
 ロキが室内に入ってきた。
「はい。お陰様で。」
 アリスは笑顔で言った。
「・・・でも、今回の相手はアリスにとっては分が悪かったわ。」
「そうなんですか。で・・・・」
「アリスちゃん、怪我はなかったかい?」
 ウリエルが室内に入ってきた。
「はい、全然平気です。」
「・・・・・で、何の話をしていたの?」
 ウリエルは身近にあった椅子に腰掛けた。
「ジャック・ロイドという方は知っているわよね。」
「ああ、RN社の。・・・・・まさか、奴が来たのか?」
 ウリエルは驚いた表情を見せた。
「ええ。」
「アリスちゃん、本当にケガはなかったのか?」
 ウリエルは念を押すように言った。
「はい。確かにジャックさんという方のサイファーの動きは隙がなく、攻撃できる余地はありませんでしたが、辛うじて回避することは出来ました。・・・・確かに若干のダメージは受けましたけど、問題はなかったです。」
「・・・すごいね、君。」
 彼は感心したように言った。
「そうですか?」
「確かにすごいことよね。」
 ローレヌは微笑んで言った。
「そう言われますと照れますけど・・・・嬉しいです。」
 照れを隠すようにアリスは笑った。
「それより・・・ロキ、座ったらどうだ。」
 ローレヌはロキを気遣うように言った。
「いえいえ、気にしないでいいですよ。ローレヌ隊長。」
「別に遠慮しなくていいのよ。」
「いえ、本当に気になさんなくて結構ですよ。・・・・それにしてもジャックさんは何でアリスさんに集中して攻撃したのでしょうか。」
 ロキは話を切り換えるように話した。
「おそらく、405号機の前パイロットと勘違いしたのでしょう。」
 ローレヌは淡々とした口調で話した。
「彼ですか?・・・・ずいぶんと根に持っていたんですね。」
「そりゃぁ、たいそうなプライドをお持ちで・・・・。」
 ウリエルは軽くからかうように言った。
「・・・・ジャックさんってそんなにすごいんですか?」
 アリスは尋ねるように言った。
「ええ。彼は10機以上ものここ(DN社)のVRを擱座させたことで有名なの。しかも、損害がほぼ皆無な状態で。」
「・・・す、すごい。」
 アリスは絶句した。
「彼の絶対的な自信もそんな実力からきているのでしょうかね。・・・でも、彼との戦いに勝利したあなたの搭乗している405号機の前パイロットもすごいと思いませんか。」
 ロキはアリスに明るく話した。
「そうですね。ところでそのパイロットはどんな人ですか。」
「・・・・自分自身に正直な方です。そして、自分の信念を貫く方ですね。」
「ふーん。・・・?」
 アリスはふと見るとローレヌは一瞬だが複雑な表情を浮かべていた。
「僕は用事がありますので、これで失礼します。」
「俺も同行するよ。」
 ロキの後を追うようにウリエルが席を起った。
「いや、いいですよ。」
「気にすんなって。女の子といたって話すことないし。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「じゃぁね。アリスちゃん。」
 ウリエルは軽く手をあげた。そして、ロキと共に室内を出た。

「・・・アリス、一つ聞いていい?」
 ローレヌは手元にあった紅茶を一口飲むと、アリスに尋ねた。
「はい、何でしょうか。」
「ここに来た理由を教えてくれない。」
「スカウトされたんです。」
「・・・スカウト?」
「ゲームセンターで『バーチャロン』をやっていたら、我が社のVRのパイロットにならないかって。最初は戸惑いましたけれど、VRパイロットは夢だったんだけど、諦めていたことなので、一生に一度のチャンスだと思って、その誘いを受けたんです。」
「・・・・それから、こちらへの配属が決まったのね。」
「ええ、そんな感じです。最初は予備パイロットとしてたくさんのシミュレーションモードをやりました。半年くらい。おかげで、ゲームセンターでバーチャロンしていて負けることがなくなりました。」
 アリスはあっけらかんと話した。
「ふふ・・・。」
 ローレヌは彼女の話を微笑ましく聞いていた。
「もう一つ聞いていい?」
 ローレヌは一息つくと、またアリスに尋ねた。
「はい。」
「なぜサイファーに乗るの?」
 アリスはその質問にきょとんとし、考え込んだ。
「うーん、見た目とかがカッコイイから。」
「くすっ。」
「おかしいですか?」
「いいえ。」
「それしか思い浮かばないんです。」
「別に難しく考えなくてもいいのよ。・・・聞き方が少し堅かったわね。」
 ローレヌはまた紅茶を一口飲んだ。
「あと、憧れの人が乗っているからかな。」
「憧れの人?」
「私のいとこです。サイファーパイロットなんです。しかもVRパイロットのなかでもトップクラスを誇るサイファー乗りだと聞いているので、憧れているんです。」
 アリスは嬉しそうに話していた。
「・・・ぜひ、お会いしたいわ。その方に。」
「えっ、お会いしたことないんですか。」
 ローレヌの台詞は彼女にとって意外だった。
「・・・わからない。」
「そうですか。実は私もいとことは会ったことがないんです。ただ、そんな話を聞いただけで。」
「そうなの。」
「だから、私も優秀なパイロットになって会いたいんです。」
 その時、ローレヌはアリスが昔の自分と重なって見えた。
「ローレヌたいちょ〜う♪」
 のほほんとした声がモニターから聞こえた。
「あら、ロキ。」
「すいません、お邪魔でしたかぁ。」
「いいえ。で、用件は?」
「はい、フレッシュリフォー(第8プラント)に移動して欲しいと。」
「フレッシュリフォーって・・・地球じゃない。」
「はい。至急、応援に駆け付けて欲しいと。」
「わかったわ。今行く。」
 モニターの映像が消えた。
「・・・地球ですか。」
「そんなに戦況が悪いのかしら・・・・」
「隊長。」
「ええ、行きましょう。」
 二人は立ち上がり休憩室を出た。
【第一章 WIND OF THE MIND〜RED〜終】
 
次回『第二章 ETERNAL WIND〜鳥になる日〜』
 どうも、ロキです。サイファー乗りには見えないとよく言われます。
 それはさておき、命令により第8プラント「フレッシュリフォー」に向かうために再びリファレンスポイントに到着した私達。
 私達のサイファーの機動点検をしていると、一人の派遣パイロットが現れたんですぅ。その方は私と一時、行動を共にするのですが、私にひどい敵意を持っているようで・・・なんか悪い事したのかなぁ。そのうえ、RN社のVRが現れてきちゃうから・・・・この先どうなっちゃうんでしょうか。
 
< キャラクター紹介 1>
(本編の主人公)
アリス・ロバート
年齢:17歳  性別:女性  血液型:O型
精神コマンド:熱血・根性・幸運 愛・夢・努力
DN社にスカウトされて部隊に配属してきた少女。
性格はドジが多く、 何も考えなく率直に物事をズバズバと話すので相手を不快にすることもあるが、快活的で前向きな性格なので部隊の ムードーメーカー的存在である。また、負けず嫌いなところがある。
彼女の憧れの人は一度も出会ったことのない「いとこ」で彼女がサイファーに搭乗するきっかけとなった人物。(理由の一つ)