不思議な場所の物語
                              語り手 ボボン

 これぞ、寂しくも静かな場所の常ならざる物語で、ほとんど知られていないふしぎな土地の言い伝え。そこではたくさんのおかしな出来事がおこっているとのうわさ。
 とある日のこと、父と子がその不思議な土地に入っていった。というのも噂によると、そこにはふだんは見ることがないめずらしい草が育ち、たくさんの美しい花が咲き、とてもきれい場所であるという。そのうえに、二人ともたいそう水あび好きで、どうしても彼の地で水をあびたくてたまらなくなったのだ。
 そうしたわけでずんずんわけ入っていくと、その山のすそにたどりつくなり子どもの目に、かがやく金に包まれた大きな木がはえているのが目に入った。そこで子どもは、父親の手を引くと、不思議な木に向かって歩きだしたが、子どもには確かにそれが見えるのだが、父には見えない。
 父親は、子がとりつかれたように、山奥にむかって歩いていこうとするので心配になって、なぜそちらに行こうとするのかとたずねると、子どもは、自分には幹も枝も金で出来ている大きな木が見えるよ、という。しかし、父親にはどうしてもそれが見えない。
 そこで、父さんには何も見えないが、と言うと、ほらまっすぐ向こうの方だよ、と子どもは言う。そこで、二人はそちらに向かって歩いて行くと、いろとりどりの花が咲き、たくさんの蝶が飛びまわり、小鳥たちがさえずって、そこはなんとも美しいところだった。
 二人はすっかり楽しいくなって、どこまで来たのかも考えず、あちらこちらをながめながら歩いていると、とうとう日が暮れはじめた。そこで父親が、さてもう帰ろう、と言ったのだが、そのときには、すっかり帰り道を思い出すことができなくなっていた。
 こうなると歩くにも歩かれず、ほとほと困りはてて、さてどうしたら家へ帰れるものかととほうにくれながらしばらくすわって話していると、子どもの耳にふしぎな声が聞こえてきたが、それはどうやら、女の声らしかった。
 父さんほら女の声が聞こえてくるよ、と子どもが言うのだが、なぜか父には聞こえない。はて、自分には聞こえないのに、子どもには聞こえるというのもおかしなものだ、とさしもの父も怖くなって、いったいどこから声が聞こえてくるのか、とたずねると、ほらほらあの木だよ、ぜんぶ金でできた木からだよ、ほんとだよ、と言う。
 そこで二人は木に向かって歩きはじめると、そばで来たときに、ほんとうに父の目にも大きな木が見えてきた。金がびっしりと枝につき、幹も枝も輝いてその美しいこと。びっくりして立ち止まりながめていると、とつぜん背すじがこおるような風が吹いてきて、ぞっと髪の毛がさかだった。つめたい風にふかれて、二人が怖くなってふるえていると、木の中から出てくるものがいた。
 それは全身にすきとおるような白い衣をまとった女で、出て来るなり、わたしは白い女の妖精です、と名のったので、父と子はこわくなって逃げようとした。ところが、木からはなれようとすればするほど、なぜか木に近づいてゆき、あれよあれよという間に木に吸いこまれて消えてしまった。妖精の家だったのである。
 これぞ、寂しくも静かな場所の常ならざる物語で、ほとんど知られていないふしぎな土地の言い伝え。何者であろうとも、彼の地に入ったものでもどったものはいず、帰ったものはいないということ、ということは、どうやら死んだものと思われているが、だれもわからない。

19歳のボボンは天才的なストーリィテラー、バゴボ族の首領であった亡き父親から聞いた昔話を語る。ボクシングのチャンピオンで絵本を出すのが夢。