Sch


+0, 0+, −0, 0−, ++, −−, ±0, 0±, +−, −+, −±, ±−, +±, ±+, ±±, 00



Sch1 +0 投入自我・同一化     男性傾向・社会性−


性格傾向:外向的.実証主義.合理主義.無味乾燥の無趣味.冷酷.無情.厳格.所有力を高めるための知識欲.形式愛.冷淡・無情.幼児的な利己主義.貪欲.自己中心.頑固・強情.自閉症.反動形成.自己遮断・遁世.職業決定の時期.対象理想との同一化.実存的またはエロス的な原始光景の瞬間投入の痕跡.
自我防衛様式:所有的同一化.
自我心理学:自我から存在欲求が消え0p,所有欲求だけになること.完全投入,利己主義,自己中心性,自己愛,貪欲.理想対象との同化,同一化.
発達心理学:児童が母と合一していた万能の幼児関与期を過ぎ,反応的膨張期に入るとあらゆるものを所有しようとする(4〜6才).これまで感情移入ができ融合へと促された愛らしさが,次第に利己主義的,自己中心的,自己愛的となり所有欲が強く貪欲となる.職業選択期(17〜20才)や就職転職期にも出現する.
臨床心理学:拝物愛,観淫等の性的異常.うつ病の投入期.宇宙的魔術的な万能妄想をもつ自閉的分裂病. 精神療法によりサデイズム, 肛門愛,同性愛等の欲求が解消された強迫神経症者.
犯罪学:財産犯,猥褻罪.



Sch2 0+ 膨張自我・憑依     女性傾向・社会性−


性格傾向:存在における万能への傾向.完全主義.詩,発見への傾向.征服欲,支配欲.神秘現象や秘密の教えに惹かれる.狂信,熱狂,熱心党(ゼロテ).存在における受動的同一視.狂喜,有頂天.両向性傾向.宗派を立てること.き計,陰謀.不遜,高慢.好訴,不平.競争意識,ライバル意識.易変性.自らに自らがのりかかること即ち憑依(対象に対して女でありたいと思う).
自我防衛様式:存在的同一視.自我における2重化.(フロイトには無い)
自我心理学:思春後期における母親との根源的関与の破滅の結果生じるのは完全膨張である.正常な状況ではこのような自我拡大は,しばしば両性愛で願望意識を拡大し母親への根源的な関与を代償する.それはより高次の詩的,哲学的,科学的或いは宗教的な観念にとり憑かれるという形をとる.それゆえ特に20〜40歳の精神的に活気のある人の場合には正常範囲内の膨張を考えねばならない.自我の重複.両方向性傾向.存在欲.
発達心理学:幼児が乳房にしやぶりつくこと及び手淫をすることは自我重複及び憑依の最初の現象である.幼児はそのとき「母と子」の二者(一体)存在となる.それは母親との失われた楽園の如き二者存在を空想界の二者存在で償う.
臨床心理学:a)膨張妄想(色情狂,誇大妄想,好訴狂,宗教妄想),特に膨張的偏執病において衝動過圧(Sch0+!,0+!!を伴った場合).b)嫉妬精神病Sch−±.c)潜在的両性愛及ぴ同性愛.d)癲癇の基盤の上に発生した偏執病.膨張的自我の補償的な自我運命は,発作的な逃亡者自我Sch±−である. それゆえ放浪欲求が現れる.
犯罪学:激情殺人,嫉妬からの殺人.



Sch3 −0 抑圧・神経症的自我     男性傾向・社会性+


性格傾向:何でも否定し抑圧する拒絶者.「儀式ばった」言葉.厳格であることを見せようとする努力.世界及び自己自身に対する不快.文芸家 気取り.倫理学,宗教,学問,精神科学へのにせの傾向.言語及び音楽に対する才能.だがその才能が実現されることは稀である.
自我防衛様式:抑圧.否定.無意識化.
自我心理学:態度を決定する機能kが願望意識の中に侵入してきた衝動活動を否定し無理に除去して0p反応となる.神経症の場合はSch−+へ進み,願望除去が意識される.
発達心理学:われわれは幼児性欲の存在と抑圧に関するフロイトの主張を支持できたのである;最初の思春期(3-4才),前思春期(9-12才)および成熟の終り,即ち性的な岐れ目の時期(17〜20才)にしばしばこの抑圧自我に遭遇する.
臨床心理学:神経症では不安神経症としての恐怖症,転換ヒステリーと性的発育不全を伴う大抵の性欲障害.精神病では緊張病型の拒絶症,偏執病の自然治癒過程としての緊張病.衝動過圧を伴う抑圧はしばしば潜在的な自己破壊の標識.特に自殺企図者,および又妄想的な飲酒癖者,目殺狂.抑圧Sch−0は,女らしさSch+±の態度を背景に抑圧していることを注意させる.本来多くの「抑圧者」は孤独な女らしさを背景に抑圧し,かつ多くの潜在的同性愛者がこの抑圧0−像を前景に示すことに留意されたい.
犯罪心理学:H.ワルダーは窃盗者や犯罪者においてもこの抑圧像を見出した.もちろん彼らは逮捕後には所有+!kの欲求を抑圧しなければならない(この場合,背景自我の解釈の重要性が示される).



Sch4 0− 関与/投影自我     女性傾向・社会性−


性格傾向:何でも人のせいにする幼児的関与欲求.劣等感,微少妄想.不信.怨恨.喧嘩好き.狡猾.沈思.神秘的・瞑想的思考の傾向.好訴癖.孤立者.
自我防衛様式:投影.関与.転移.
自我心理学:最初の自我生活は母親との二者一体実存の関与である.関与は意識されず,また一切の態度を伴わない投影である.幼児はこの自我同一視において自らの存在の力を母親の自我に転移する.この人は関与対象を永遠に追求する(現実界・妄想界において).彼はその対象と合一したいと欲するが成功しないので彼等はつねに好訴癖の強い弧立存在となるか偏執病的な疾患になる.
発達心理学:完全投影は自我発達の最初の段階に発現する.だが現代ではこの母と幼児の楽園のような投影期が,比較的短期間で終わることが問題である。この原始投影が破滅した後に,二次的な投影期が始まる.すなわち幼児は言葉を話し始める前に,母親が見捨てたことを号泣と攻撃(乳房を噛むこと)によって「訴える」.この時期は幼児虐待の出発点でもある。成人における被害妄想的投影欲求の出現は,男女ともに背景に潜在する「自らの中にある男性性±kに憑依+pする」という願望,つまり強迫的労働への欲求を,人格の前景舞台に引き出すことが不可能になっていることが原因である.
臨床心理学:この投影自我は,自ら仲間から孤立し偏執病的な疾患になる.テスト所見にこの投影自我がしばしば現れる場合は成人における投影的偏執病を意味し,それが衝動過圧を伴う場合は妄想形成−追跡妄想,関係妄想,被害−注察妄想,および幻覚−を伴っていることを証明する.
犯罪学:種々の型の倒錯的犯罪者.強盗殺人者.激情殺人者.



Sch5 ++ 権力自我     女性傾向・社会性−


性格傾向:私は万能であり万有である.人間化傾向.一つの方向に最終的に決断することができず常に曲り角に立って考える.十字路に立つ人.あまりに高過ぎる自我理想.文学者気どり.利己心・自己愛.長い間親しむことができない極めて上品な人.不満足.影響され難いこと.無秩序.信頼と不信との交替.
自我防衛様式:投入膨張.
自我心理学:自我の力が万能+pと万有+kに向かおうとしている状態.投入膨張,万能と万有,完全自己愛,完全権力自我.この権力欲は自我を危険に陥れるほど自己愛的にする.しかしそれは膨張Sch0+或いは投入Sch+0の機能自我が,単独で自我生活を圧倒する場合よりも個人や環境に作用する危険性が少い.−というのは,膨張欲求+pを物質的に実現する試み+kが,その憑依性を緩和するからである.この所見は性欲の昇華S−−或いはS−0が成功した場合にのみ,心理学,医学,精神医学,著述業,及び暴力的な革命思想を伴うあらゆる種類の精神的職業活動に発展する.
発達心理学:この完全権力像は20〜30才では他の自我像の二倍に相当する程多く見出される.第二の思春期(12〜16才)特に思春期の終りではこの完全自己愛即ち万能であり万有でありたいという欲求が頻回に現れる.老人ではこの欲求は完全に消失し,その位置を完全投影にゆずり渡す.
臨床心理学:非現実的な権力妄想を伴う若年者の妄想型分裂病.シゾマニーないしシゾメランコリーの混合を伴った意志不定性精神病.いわゆる「カイン葛藤 Kainkomplexを伴った発作的疾患すなわち頭痛発作,癲癇の非定型的発作および種々の形のてんかん代理症や好訴病ヘの素質を示す.精神的な半陰陽ないし変装狂の場合もある.
犯罪学:この所見は昇華の素質を意味しており,犯罪心理学的および裁判上の意義は少ないが,H.ワルダーはこの自我の所見を潜在的同性愛を伴った露出狂,更にはS−−!を伴った強盗殺人者に見出した.我々は戦争犯罪者に見出したのである.



Sch6 −− 訓練自我・適応自我     男性傾向・社会性+


性格傾向:社会に適応した永遠の学習者.対象をより好みをせず常に準備完了した性欲(S++,+!+,++!)の人.よく訓練された平凡な人.その世界は理想なき灰色の世界であるが革命の時代になると自我が突然廻転し,権力や万能・万有を得ようと努力する.
自我防衛様式:抑圧的関与.否定的投影.
自我心理学:この自我は衝動欲求を外界へ移し満足させようとするが−p,態度を決定する自我がこの願望投影を否定し断念するように−k強制する.この適応自我は内からも外からも永久に断念するように訓練された灰色の楽しみのない自我であり西欧的世界では平凡自我と呼ばれる.それは前近代的な共同社会や国家の支配者にとっては極めて都合のよい物言わぬ羊たちの自我像である.この否定する力があまりに強過ぎると常に自己破壊或は他者破壊の危険が生ずる(Sch−!−,−!!−,−!!!−).この訓練的人間の背景に隠れて常に待伏せしている自我は支配者の権力自我Sch++である.
発達心理学:適応は40歳で最高点に達する.当然のことながら,我々は12歳以下の子供では,この訓練自我を発見することが最も稀である.
臨床心理学:衝動過圧!を伴う場合に始めて興味深いものとなる.躁病(Sch−!−,S−!!−,但しS++!,++!!を伴う).進行麻痺.但ししばしば−!pという形の衝動過圧を伴う.破壊的・激越型の緊張病(Schー!!ー,ー!!0).自殺念慮(Cーーを伴う).
犯罪心理学:この訓練的な自我像が衝動過圧を伴った場合に重要な意味をもつのである.H.ワルダーは投影的否定の破壊型を窃盗者および露出狂に見出したが,我々はこの所見を68歳のパン屋で,飲酒者,幼児殺人者でもある症例に発見した.裁判の例では当然のことながら,破壊的な投影的否定の場合に次のことを考えねばならない. すなわち拘禁や未決拘留中の人は犯罪行為者自我(Tater-Ich)を背景に置いている(Sch+!+,+!+!,+!!+!等).



Sch7 ±0 男性的強迫自我     男性傾向・社会性+


性格傾向:倫理的過ぎる過敏な態度:我欲を捨てる・憐憫・良心的・正義・清潔・几帳面・秩序正しさ・狭量.感傷的.情緒変動.外には鈍感,内には興奮.苦悶.知識的なうぬぼれ・高慢.克己,自制.精神的適応.性欲減弱.自己保存欲求の減弱.粘着性・緩慢性.悲観主義.取越苦労・疑い・疑惑と非難,叱責癖.迷信.機械的な強迫行動(つまんでひっぱる,むしる,ひっかく,打つ,たたく等の動作).計算症,記録癖.悲劇的な悲哀と接触喪失.大河ドラマの主人公のごとき男性的強迫神経症の心.
自我防衛様式:投入否定.否定的同一化.
自我心理学:社会に危険をもたらすようなマイナスの欲求は抑圧され−k,それと対立する社会にプラスの欲求は自我及び性格に同化+kして願望意識から除去される0p.例えばサディズム,肛門愛欲求,アナル・サディズム等は抑圧によって願望意識から除去されるが,温和,極端な潔癖などは性格に同化される.
発達心理学:この強迫は第2の思春期(13〜16才),一部第1思春期(3〜4才),前思春期(9〜12才) および潜伏前期(5〜6才)に頂点に達する.勿論常に攻撃性と肛門愛欲求とが比較的大きくかつ環境から禁止されるような時期にこの強迫機制が現れる.
臨床心理学:強迫行動を伴う強迫神経症.心気症(Hypochondrie).転換ヒステリー.精神病患者における強迫妄想.
犯罪心理学:犯罪者にもしばしばこの強迫的性格を見出す.



Sch8 0± 女性自我・見捨てられた自我     女性傾向・社会性−


性格傾向:軟かさ,女性化.欲情されたい,求愛されたい,贈られたい,導かれたいという願望.相手に生命をうちこむ傾向.感傷性.世界苦(感傷的厭生感情).孤独・見捨てられたという感じ.謙遜.暖かい感じ.直覚的な感情移入.極端な主観性.被影響性.空間および時間の見当識の不良.叙情的,神秘的な興味.「非論理的な非因果論的な瞑想的な思考.」生存競争における弱者.ひき離された孤立存在となることを承認出来ないこと.
自我防衛様式:膨張投影.関与的2重化.
自我心理学:見捨てられ「去勢された」自我,女性的短音階自我.去勢不安.悲劇のヒロインのような女性的な強迫神経症の自我.「対立する欲求の片方は対象に投影されSch0−,他の欲求は自らの自我の中で拡大しようとする」この膨張投影自我の典型例として女性的自我を引用しよう.男らしさへの欲求♂と女らしさへの欲求♀が対立して存在する場合,♂は外界の対象に投影され0−,♀は自らの自我を拡大しようとする0+.つまり自らの男らしさを外界に投影し0−,自らの中に潜在的に持っている男らしさ=ユングのいう行動欲求=を探求する.だがその際自らは女でありたいと思う0+のである.同性愛的な男性もしばしば同じような態度をとる.彼は自分の魂の中から移し出した男性を外で探し,愛の相手として選び,自らは彼に対して女でありたいと思うのである.この膨張的な投影自我は,しばしぱ男女両性における去勢不安の葛藤を意味する.これは個人の「孤独」を意味し,自我の垂直分割により,男性的な長音階自我Sch±0から見捨てられた状態Sch0±である.
発達心理学:この自我は幼児期,前思春期(9-12才)及び閉経期(40〜60才)に最も頻回に発見される.
臨床心理学:女性的な自我として,次の傾向が印象づけられる.重複化,膨張(+p)への索質を伴う拡大欲求が優勢を占めること.関与への願望(−p).投影,告訴癖への傾向と同時に融合への探求.非常に高い存在理想を伴う理想主義.存在力欲求(万能でありたいという欲求).存在自己愛.内向性(共に体験する,自ら体験する).母権欲求.思考における非合理主義.非現実主義,非物質主義,精神性.それゆえ男性における受動的同性愛(特にS+−;P+−;P0−;C++を伴う場合).突発的な類破爪病(−!hy,−!k,−!pにおける衝動過圧を伴う場合).偏執病の病前期(S,P,Cに対角線的分割を伴う場合).稀に転換ヒステリー. 背景人格としては,女性的な短音階自我が,継起的に,或いは同時に,常に男性的な強迫的な長音階自我が職務を司るのである.
犯罪心理学:同性愛的犯罪.嫉妬からの激情殺人者.



Sch9 +− 反抗自我・自閉自我     男性傾向・社会性−


性格傾向:何にでも反抗し自閉的な世界に入る.閉鎖性.寡言.冷酷.執拗.頑固.影響を受けない.他人と同化することができない.暗点形成.眠り草のような過敏性.自閉的な思考様式にも拘らず動揺している.大きな世界の舞台に登場することを夢みる.自閉的な,規律のない,魔術的・冥想的な思考.
自我防衛様式:投入投影.転移的同一化.
自我心理学:分裂・自閉症および反抗の投入投影自我は,無意識の過程で,外に移された欲求−pが彼自身の自我に同化+kされる.完全投影(Sch0−)の場合は外に移された欲求は環境の対象に向けられるが,投入投影の場合は自我が無意識から外に移されたあらゆる衝動欲求の受領者であり受取人である.もし自我があらゆる投影された欲求を肯定し認容する(自我のものにする)ならば,断念する傾向は全くないので,この自我は自閉的な規律のないものになる(Sch+−には断念−kが欠けている).
臨床心理学:この反応は次のように明確な診断を与える.1.メランコリーの投入的な初期.欝病患者の自責の念と全罪業妄想は環境の投影的な告訴Sch+−を隠している.2.自閉的・魔術的思考の分裂病は,しばしば他のべクタにおける対角線的分裂の他に自我においても投入投影の分裂像を示す.3.投入投影的な性欲障碍,例えば拝物愛,マゾヒズム,露出狂においては完全投入Sch+0が,投入投影Sch+−と交代して出現する.
発達心理学:自閉症としての投入投影は主として第1の思春期(3〜4才)の反抗期に現われ時には潜在期(5ー8才)に現われる. それ故にこれは幼児的な自我を現わしている.幼児は投入投影の力を借りて自らの世界像をつくる.幼児は世界の対象の投影された集合的原始像の助けを借りてこの自然物を知覚しようと試みる.即ち再発見の後にこの自然物を本来の自我に同化しようとする.
犯罪心理学:我々はこの自我像を自閉的な類分裂性気質の犯罪者に見出す.背景自我として,同時に,或は継起的に,制止自我Sch−+が作用する.



Sch10 −+ 抑制自我     女性傾向・社会性+


性格傾向:自らを抑制と禁止の牢獄に閉じこめる.知能の絶対的優位.錯覚が優勢を占め,あれやこれを行うことが不可能.「私は異常である」という感情.永久に封鎖されていること.接触不能.自己中心性.内的不安と興奮.永遠の放棄・逃避・自己抑圧−この際この人は万能でありたいと欲する.永遠の拒否と同時に永遠の対抗意識.背景の自閉症に対する固定した保証手段.罪業念慮と刑罰不安.差恥及ぴ嫌悪の限界の背後にある自我の防壁.
自我防衛様式:否定膨張.適応的憑依.
自我心理学:禁止・制止は否定ざれた膨張である.否定は収縮的な−k反応の中に,膨張は+p反応の中に現れる.制止においては自我における葛藤は,拡大的な自我が万能でありたい+pと思うこと,および収縮的な自我がこの自我拡大を否定すること−kによって生ずる.かくして自我においては否定によるデフレーションが生ずるのである.態度,動作,行動および思考の抑制は,膨張の内部的否定を忠実に反映する.抑制によって生活のあらゆる領域,例えば性欲,接触迫求,興味及び関心,運動,食欲,仕事,睡眠,夢等における最も多種多様な機能制限が生ずる.
発達心理学:制止は殆んどあらゆる年令に現れ得るが,20-30才および12-16才において頂点に達することが強調されねばならない.
臨床心理学:制止の臨床心理学はあらゆる神経症の広範囲な領域に及ぶ.1.転換ヒステリー.これは抑圧Sch−0,疎外Sch−+,感動氾濫P++が伴う.2.心気症(P+−,P0−を伴う).3.強迫症(Sch+0およびSch−+を伴う).4.性的未成熟:陰萎,多型倒錯的な段階への固定による性欲の制止,および抑制された同性愛.5.稀には拒絶症的・緊張病型分裂病(−kにおける衝動過圧を伴う).
犯罪心理学:犯罪的には制止自我が発見されることは稀である.拘禁環境下で調査する場合には同性愛的犯罪者や異常性欲の犯罪者にこの所見が散見される.制止の補償的な背景自我は自閉的な投入投影的な自我である.制止と自閉症とは補償的な運命である.



Sch11 −± 疎外自我・離人自我     女性傾向・社会性+


性格傾向:急によそよそしくなる.見捨てられたことを否定する.自らを疎外する離人者.去勢葛藤.白昼夢.強過ぎる内省.世界及び自己に対する異物感.非現実性.空想虚言への傾向.自己隠蔽・自己隠遁.世界消失感そして後に起る世界征服への突然の衝動.欝病.
自我防衛様式:女性性否定.抑制的関与.
自我心理学:疎外・疎遠・孤独と女らしさの否定・離人症.この自我像は二つの部分機能,即ち制止Sch−+と投影−pに分けると最もよく理解できる.投影が制止によって抑制される.そこで制止された投影という. ±p反応は孤独Sch0±と女性的な自我Sch0±)を意味するから,孤独の否定即ちこの不愉快な運命と和解できず孤独や環境から受容されないことを認めることができない.また男性・女性ともに女らしさの否定,去勢の否定である.さらに+kの欠如は疎外自我は知覚界への橋を欠いていることに注目せねばならない.
発達心理学:30〜40才(嫉妬期及び対抗意識の時期)に多く,愛や天賦の才能,宗教,両親等に関し最初の大きな失望を体験する思春期の終り(17〜18才)にも見られる.これは一過性の疎外である.閉経期(女では40〜50才,男では50〜60才)にこの疎外自我が発見される.
臨床心理学:一般に疎外や離人症を次の場合に発見する.重篤な心気症.転換ヒステリー,特に身体部分のヒステリ一性疎外(偽性麻痺),ヒステリー性の感覚鈍痲,及び感覚器官の遮断を伴う場合(例えばヒステリー性聾,ヒステリ一性盲.妄想的な飲酒癖,他者破壊妄想,妄想的自殺念慮(殺人狂).嫉妬妄想.麻薬嗜癖.器質性精神病.癲癇.
犯罪学・裁判精神医学的意義:殺人衝動,殺人狂,しばしば嫉妬妄想或は破壊妄想においてこの自我が見られる.また分裂型の強盗殺人者,発作的・癩痢型の激情殺人者,露出狂にも見られた。背景人格の投入的自我Sch+0は,規則正しく継起的に現れるのが常である.活動的であり過ぎること,世界のあらゆる価値対象をしばしば残忍と思われる程に把握し所有すること,一般に効果的である極端な所有力欲求.この状況は躁病の状態と区別される.



Sch12 ±− 逃亡者自我・発作自我     男性傾向・社会性+


性格傾向:飛躍的で脈絡のないこと.鈍感から脱制止への突然の激変.不安から粗野な大胆さへの激変.執着から絶縁,離反への激変.柔順から強情への激変.些事に拘泥することからふしだらへの激変.楽天主義から悲観主義への激変.適度の飲酒から極端な飲酒癖への激変.倹約から浪費への激変.生命の肯定から死の渇望(タナトマニー)への激変.
自我防衛様式:男性的関与.自閉否定.
自我心理学:強迫により抑制された投影・強迫によって関与ができなくなった逃亡者・逃走・逃亡者自我・発作的自我.この自我像は疎外と同じく投影という大きな防衛群に属している.投影,即ち偏執病−pの危険性が強迫±kによって防衛される.この自我に投影されたものは一般に非難,被害,稀に追跡という形で現れる.また,強迫的なものは抵抗し難い強迫の中に逃亡し,今迄の居住地を見捨て放浪し旅行をする(世界漫遊者).この逃亡者自我は子供を放浪癖にさせ,入院患者や受刑者を挿話的に施設から脱走させる.この自我の担い手はしばしば投影の世界Sch0−をもはや耐えることができないので,彼自ら他の強迫の世界へと逃走する.しばしば逃走は同時に強迫自我によって実験的に可視的なものとされる懐疑の中で起きる.良好な状態の下では,自我において次のプロセスが起り得る.即ち外に投影された欲求−pのある活動,一般に殺害欲求や攻撃性が否定−kされ,他の活動,社会的にプラスの活動が自我に同化+kされる.この発作的な自我を適応Sch−−と所有力(投入=+k)との組合せ,或は自閉症の否定−kへの傾向を伴った,自閉的な規律のない自我Sch+−として理解することも出来る.もしこの自我像に出会った場含は,自我分析家は個人の自我運命におけるあらゆるこのような可能性を考えねばならない.
発達心理学:この逃亡者自我は最初のエディプス思春期(4〜6才),就学開始期(7〜8才),人によっては前思春期(9〜12才),更には高令者(70-80才)において臨床的な意義がある(老年期では生命からの逃避).
臨床心理学:発作的,癲癇型の人における徘徊癖,放浪(Poriomanie).投影的および膨張的偏執病における挿話的な徘徊癖.真性癲癇Sch00,Sch−±を伴う).メランコリー(−kを伴ったSch+−).吃音者.窃盗狂(Kleptomanie),放火狂(Pyromanie),渇酒症(Dipsomanie),真性癲癇の代理症としての発作的な偏執狂.
犯罪心理学:社会的に異常な放浪癖.周期的に仕事を嫌うこと.感動行為とそれに続く逃避(例えば激情殺人者において).嗜楽殺人の素質(色情性小児愛好,屍姦を伴う).窃盗狂,放火狂,渇酒症.
背景人格は膨張的偏執病である.背景の欲求である万能+pは,当然のことながら無力と,無力に対して環境を非難すること−pを惹起する.そして自我はこの緊張から逃れて,他の世界へと逃避する.我々は社会的にブラスであり,天賦の才能に恵まれた膨張的な自我拡大的な人Sch0+においても,永続的な放浪欲求Sch+−を見出すのである.そしてこの放浪欲求は彼等を世界漫遊者の運命へと誘うのである.この場合,本来自己自身に対する不満足および高過ぎる自我理想+pの否定からの逃避が問題になる.



Sch13 +± 孤独と女らしさを肯定する自我     女性傾向・社会性−


性格傾向:孤独の肯定.女であることを認め引き受ける.妊娠願望.諦めることができないこと.性格傾向は完全投入の場合と同様である.1.所有欲及び存在欲.2.利己主義.3.自己中心性.4.自己愛.5.情緒易変性.6.不安定.7.自己顕示欲求.8.大言壮語への傾向.
自我防衛様式:女性性肯定.自閉的憑依.
自我心理学:膨張投影の投入 孤独および女らしさを肯定し承認すること・完全投入の前期・去勢葛藤の認容.この自我像は三つの要素的機能,すなわち投影−p,膨張−p及び投入+kを自らの中に隠している.この人の素質は,孤独と女性的な自我の側面±pを承認する+k.この受容準傭性は我々を見捨てた母親を受容すること,母親との和解,「去勢された」女性的自我±pとの同化を意味している.この観点から見るとこの自我像は,自我形成及び性格形成の重要な部署である.この自我反応の欠点は否定傾向の欠如,即ち放棄することの欠如−kに基いている.断念することかできない人,諦めることができない人は,生活におけるどのような状況でも常に危険にされている.この自我像の意味を個々の自我機能に分解すると更に詳細に規定することができる.Sch+±はまず次のように分解される.万能と万有の欲求++と投影−p.それ故あらゆる危険性を伴う自己愛的・投影的状態を表現する.他の分解可能性はSch+−即ち自閉症と+p即ち膨張とに分解することであり,少からず危険をもたらす自我反応である.しかし実際には孤独と女らしさ±pの認容+kという解釈が,我々にとって最も役に立つように思われる.この場合態度を決定する自我kは反動形成,即ち投入の性格形成によって,関与の損傷の結果(2次的投影と膨張)にうち克とうと努めるのである.更に経験的には±p反応はしばしば完全な解放0pの準備性を現わすことが知られているから,この自我像は完全投入Sch+0の前期とも理解される.
発達心理学:この断念できない自我像は,最初の幼年期の思春期(3〜4才),第2の少年期の思春期(13〜16歳)および発達の転換期に見出すのである.
臨床心理学:この自我像の発現が稀であるために,今日迄あまりよく研究されていない.1.権力欲求と強い自己愛傾向を伴った投影的・偏執的な神経症が時折この自我像を与える.特に母親との結合から離れることが非常に困難で,おそくまで結婚できず,顕著な母親コンプレックスと戦わねばならない男性にこの所見が見られる.2.幼児的な多型倒錯的性欲段階,解消されることのない近親相姦的結合,或は去勢不安の葛藤が不安の根源を現わしているような不安神経症の患者にこの所見が認められる.
犯罪心理学的意義は性格像から得られる.詐欺・欺まんは,この自我像の裁判上最も重要な指標である. 背景の補償的な抑圧目我Sch−0は次のような危倹性を証明する.弧独を受容し去勢不安の葛藤や女らしさと戦わねばならない人間は,彼等の衝動生活のこの問題を抑圧することによって,容易に神経症患者となり得る.抑圧自我はしばしば同性愛を認容することに向けられる.このことはこの自我像が殆んど常にそのような様相を呈する,未分化な性欲発達を証明する.



Sch14 ±+ 強迫労働者自我     男性傾向・社会性+


性格傾向:強迫的に働き家計を助ける父親的な心.性格は自我心理学的分析から得られる.完全欲Sch++. 誇大感情と劣等感との転換(前景におけるSch±+,背景におけるSch0−.権力発作と失神発作.膨張を仕事の強迫で武装すること.思考強迫.一次元的な注意過集中.意志強固.日課表,日曜の日課表にも辛抱する強迫的な生活設計.保守主義,伝銃主義.嗜癖への素質.性欲,知能,社会性の未発達.自己怠業(+kから−!!kとなる場合).心理学・教育学・精神医学・児童心理学・治療教育学への素質.
自我防衛様式:男性的抑制肯定.
自我心理学:強迫によって抑制された膨張・強迫デフレーション・強迫的に働く自我.この自我反応の過程は多義的である.とくにこの反応は膨張の危険性+pが,強迫±kというよく知られた魔法の機制で防衛されることを意味している. 完全膨張Sch0+はこの自我の担い手を殆ど働く事ができないようにするのが常であるが,Sch±+の自我の担い手は殆んど強迫的に仕事をする人のように働くのである.強迫は外からではなくただ内から来るだけである.中断されない仕事への強迫は,完全膨張の危険性から彼等を守るのである.それ故に,休息状態0kは彼等自身を憑依の厄介者に引渡すのであるから,彼等は決して休息を許すことは出来ない.第2の解釈可能性はSch++を+k即ち投入とSch−+即ち制止という分解によって得られる.このような機能分析によって,この自我像の担い手の更に2つの特徴が正体を現わす.1.異常な学習能力,専門知識の吸収(+k).2.社会的および性欲的などの殆んどあらゆる接触における制止Sch−+.またSch±+を次のように分解するならば第3の解釈可能性に達する.Sch++=万能と万有(完全自己愛)と−k反応即ちあらゆる権力を断念することとに分解する. この分析からこの自我像の担い手は,本来渇望した権力の地位や身分を永久に断念する人を現わしているなけれぱならないのであるから,彼等はしばしば雇主や家族から最高度に利用し尽される.それ故にこのような人々では,突然起ってくる,完全に予期されない,攻撃性や憤懣の爆発が,周囲の人々を驚かすのである.しかしながら嵐は急激に過ぎ去って,彼等は以前の状態にとどまり,悲しい強迫的に働く人に再び帰るのである.第4の解釈可能性は次の如くである.強迫的に働く人の自我には,完全に統合されるSch±±ための関与ないしは投影−pが欠けている.この状態は一方では団結や愛における欠損状態を結果し,他方ではあらゆる創造的な活動における不安を結果するのである.この自我像の担い手は,彼等の直覚的・投影的な才能−pを背景に置き,自分は全く才能に恵まれず,独立した,直覚的な仕事をする能力がないと信じている.しかし,もし背景の直覚Sch0−を前景自我の中に建築するように彼等を助けるならば,天賦の才に恵まれた直覚的な統合された人格Sch±±が我々の前に現れてくるのである.
発達心理学:この自我反応は第2の思春期(17〜20才)の終りに始まる.稀にはもう少し早く(13〜16才),殆んどまぬがれることの出来ない思春期膨張を強迫で防ぐのである.
臨床心理学:恐怖症は試験恐怖・舞台恐怖・権威恐怖の形で主として現れる.誇大感情や劣等感を伴う偏執性神経症.劣等感は背景に作用する完全投影によって証明される.発作.頭痛,吃音,がみがみ言うこと,憤怒の爆発,及び小児ないしは窃盗狂における他の種類の発作.
犯罪心理学的には,この強迫的に働く人の自我が現れることは稀である.若年者においては,所有力+kは関与の没落−pに対する代償として,一過性の窃盗を惹起する.成人においては放棄−kを断念した後で,詐欺師における詐欺が所有力及び存在力Sch++から生ずる.背景像の完全投影Sch0−は,偏執病の危険性を意味している.



Sch15 ±± 統合自我・破局予感     男性傾向・社会性+


性格傾向:全体性,完全性への欲求.存在と所有,感情と思考の矛盾を認識し分析し克服する.精神の破局が切迫するのを予感する.
自我防衛様式:架橋準備性.
自我心理学:すべての自我防衛機能が働いている状態.つまり投影・膨張・投入・否定が総動員される.自我の最高の能力.統合された自我は辺縁衝動の危険をもたらすような対立性たとえば性生活や接触生活のあらゆるジレンマS±±,C±±を解決する.またしばしば倫理・道徳的実存のジレンマP±±をも除去する.かくして性欲の対立,感動の対立,社会的(接触)対立などの問題を引き受けそれを「自我の問題」にして解決する.更に意識と無意識との対立,衝動と精神,身体と魂,女らしさと男らしさの対立を調整統合する.しかしより高度な人間完成の段階即ち覚醒と夢,彼岸と此岸の裂け目に橋を架ける「精神的関与や超越の機能」を実現するのは次の架橋自我の段階においてである.つまり統合自我は架橋自我の前段階である.架橋自我については別項を参照.
発達史:第2思春期(13ー16才),成熟の終わり(17ー20才)に頂点に達する.
臨床心理学:不安神経症,不安ヒステリー,例えば発作的速脈における破局予感.精神病になる前の自我状態(−s,−!!sを伴う).癲癇発作直前.
犯罪心理学的および裁判精神医学的意義は癩澗に対する関係から求められる.発作的な激情殺人者は,カインに対する内部的闘争の証しとして,この自我像を完成する.この解体の場合は前景像と背景像の弁証法について論じることはできない.だが時折,回転舞台が180度回転するか,突然統合が出現するような時にのみ,そのベクター領域,年齢,先行する衝動像如何によって論じることができる.背景自我の完全な解体,即ちあらゆる保護機能や防衛機能の喪失は,歓楽の中にも常に身に迫っているような危険(釈注:デモクレスが宴会の席で一筋の髪の毛で吊した白刃の下に座らされた)のように,常に彼等の自我運命の上にのしかかっている.あらゆる自我の力を統一し,実存のあらゆる対立を常に概観し,橋渡ししようとする超人間的な努力は,我々の見解によれば,常に背景に隠れている解体の間断のない危険性に由来しているのである.



Sch16 00 自我喪失     女性傾向・社会性−


性格傾向:(死の願望に対する)恒常的な罪業念慮の不安.カイン的人間における恭順,犠牲への素質の硬直した仮面.街の天使とがみがみ言う女,道徳的なマゾヒズム.粘着性.不純.演劇的な誇張.霧のかかったようなもうろう状態におけるHindoesenの時期(Oblomow葛藤).決して完全ではない実存.殆んど固定した,硬直した職業人仮面をもつこと(教会の,或は国家的な牧師,道徳家).職業人としては有能であるが,家庭の一員としては我慢出来ないこと.背景人格,即ち破局を予感する自我,及びそれ故に統合を求めて努力する自我Sch±±は,時折舞台の前景に現われることがあるが,それは又同時に常にブレーキをかけ,願望をもたらすような法廷として作用する.
自我防衛様式:自己喪失.
自我心理学:解体・自我変換・自我における無力・もうろう状態・失神発作自我喪失.我々は解体を自我心理学的に,辺縁衝動及び外界に対する自我防衛活動の完全な放棄として理解する.それは一般に一過性の性質をもつ鷹描状態,失神状態であり,自我喪失の状態である.自我衝動の廻転舞台が2つの対立する自我運命と共に,あまりにも早く廻転する人間は一時的に一自我転換のほの短い間だけ一解体された自我を具現する.特に同性愛的な女性は,相手の強さに応じて,下着のように男性的長音階自我と女性的短音階自我とを転換するのが常である.アベルの自我状態とカインの自我状態とを急速に転換することができる発作的性格の人もまた,l0系列中に何回かはSch00の自我像を示す.
発達史的には,自我における解体は60〜70歳の年令,更には青年期自我から成人自我への移行(20〜30歳)において意味がある.
臨床心理学:1.同性愛的な女性における両性愛.2.快楽の方向が急激に変化するサドマゾヒズム的倒錯者.3.精神病が発病した初期(−!s,−!!s,−!!sを伴う).4.恐怖症(この場合はP+0を伴う). 5.死の予感を伴う心気症.6.癩澗代理症としての放浪.7.非常にしばしば襲来する失神発作.8.強迫の放棄と偏執病になる前との中間期に於ける強迫神経症.
犯罪学:とくに発作疾患におけるもうろう状態において行われた行為について,この解体自我は犯罪心理学的意義を持つ.例えば激情による放火狂,殺人.

衝動解釈辞典 終了


付録:架橋自我について


統合自我から架橋自我へ この統合された自我・破局予感の自我は,自我心理学的にいえば自我生活におけるあらゆる機能と防衛様式の合同ということである.即ち,必要と欠乏とに応じて投影・膨張・投入および否定を,保護や防衛の目的ならびに完全な自我の建設に役立たせるための,自我の最高の能力である.それ故に統合された自我は,衝動生活の辺縁における,危険をもたらすような対立性(即ちS++,C±±)を解決するような状態におかれる.

そしてその結果,性生活や接触生活のあらゆるジレンマ,更にはなおしばしぱ倫理的・道徳的実存のジレンマ(P±±)をも生活の辺縁から除去し,これらのジレンマを自己自らの中に受容することができるようになるのである.かくして性欲の対立性,感動の対立性,社会的(接触)対立性から「自我の問題」を作り,それらを自我自らの中に運ぶことが,始めてこの統合された自我において成功する.この統合された自我は,生活の辺縁における実存を,危険地帯から守るために,いわぱ彼自身に身を捧げるのである.

統合された自我は司令塔にあって,左右の危険な流れや深い所,浅い所の危険を探知し,船を常に安全に保つために,あちらこちらを歩く船長のように働くのである.この統合自我の,常に 途上にある(das staendige Unterwegssein)という性格が,意識と無意識との対立,主観界と客観界との対立,衝勤性と精神との対立,更には身体と魂との対立,女らしさと男らしさとの対立,万能と無力との対立,覚醒と夢との間の裂け目,更にこの世とあの世との間の深淵に橋をかけることを可能にさせるのである.かくして状況いかんによっては,統合された自我は,我々が「架橋機能」(Pontifexfunktion)と呼ぷ最高の機能を展開する.自我が実際にこのことが出来るならば,統合された自我は「対立するものの橋渡し Pontifex oppositorum という名称に値するであろう.我々の見解によれば,単に意識だけではなく無意識もまたこの架橋自我に懸っている.従って架橋自我は単に意識的な現象に対してだけではなくて,無意識的な現象に対しても責任をもつのである.「対立するものの橋渡しとしての自我」を認めることによって,運命分析の自我理論は,「身体自我」と「精神自我」(C.G.Jungによればセルフ)の他に,形而上学的な自我概念すなわち架橋自我を置いたのである.

特に不可欠な条件として,架橋自我の実存を基礎づける,3つのより高次な機能が存在する.それは次の如くである.

     1. あらゆる対立するものの統合
     2. 精神的(形而上学的)な関与
     3. 超越(Transzendenz)

しかし,ここで注意すべきことは,統合自我は,まだ精神による関与の実現や超越を実行していることを意味しないのである.だが統合はこの両者に絶対に必要な前提粂件である.それゆえ統合自我像Sch±±がテスト結果に現われた場合,被検者が既に精神による関与および自我の超越の段階に達したことを保証するのは間違いである.人間は精神の危急の場合に,例えば発作や精神病の始まりの前に,あらゆる自我の4要素機能を同時に要求し,その制動機が破裂するまで要求することが出来る.即ち自我における予感された破局の前に,自己を統合することが出来るのである.しかしながら,破局状況におけるこのような統合は,まだ超越への途上にある精神との関与への能力を意味しない.それ故に統合自我から直ちに架橋自我の実存を結論することはできない.しかしながら,統合自我は単に衝動生活の辺縁における反対の流ればかりではなく,統合の結果として生ずる自我領域における対極性緊張そのものをも解決するに違いない.統合自我における内部的な対立性は次の如くである.


  1. 万能と万有   Sch++   Sch−−  放棄と適応
  2. 自閉症     Sch+−   Sch−+  制止
  3. 強迫/男性自我 Sch±0   Sch0±  弧独/女性自我
  4. 完全投影    Sch0−   Sch±+  強迫作業
  5. 完全膨張    Sch0+   Sch±−  発作的逃亡
  6. 完全投入    Sch+0   Sch−±  疎外
  7. 完全抑圧    Sch−0   Sch+±  孤独と女らしさとの認容
  8. 前景の統合   Sch±±   Sch00  背景の解体

この最後に挙げた課題は,我々の見解によれば,統合的自我の特別な破局予感を惹起するのである.

以上から,その実現が自我の人間形成を促進する,殆んど超人間的とも思われる課題が,可視的なものとされるのである.そして人間というものは統合された自我を証明することが少く,また架橋自我を証明することが更に少いものであるということは,もはや疑うべくもないであろう.だがそうは言うものの,人間一般にとって彼の自我を,対立するものの橋渡しをする,この最高の実存平面にまで高めることが可能であり,そしてまた理想自我(IdealーIch)としての人間形成の,困難な道の途上にあるこの架橋者自我が,常に我々の前に立っていることが,我々にとって重要であるように思われる.


統合自我所有者のより詳しい性格傾向

性格学的傾向:
1.弁柾法的性格:存在と所有,感情と思考に於ける一切の矛盾を認識し,分析し,克服すること.
2.全体性,完全性への欲求.
3.対立するものを一元性の中に把握すること(Hegel)
4.合理性(Sch++,+p)と非合理性(−p)との闘争.
5.現実性(−k)と非現実性(Sch++,−p)との闘争.理想主義と現実主義との戦い,精神的人間と衝動的人間との戦い(ファウストとメブィスト,カインとモーゼ).
6.男性的な長音階自我(Sch±0)と女性的な短音階自我(Sch0±)との戦い.
7.しばしば血管神経症(頭痛,喘息,枯草喘息,湿疹等).
8.個人的な不安が全人間に対する不安となる,人間をより良くしたいという欲求.
9.その大きな宝物は常に強い,信頼すべき自我であり,それ故に敢えて無意識の中に姿を消すのである.
10.それは賢明ではあるが,孤独な放浪者であり,隠遁者である.
11.その巌格さが人間としての責任の範囲を拡張するものである故に,彼等の道徳的,倫理的巌格さは,同胞に対して一しばしば自己自身に対して一殆んど耐え難いものである.
12.状況いかんによっては,彼等は戦闘的な人道主義者になり得るのである.