ペルーのランにふりまわされる米国

訳:酒中仙 2002.08.11

Peruvian orchid feeds intrigue in United States

BY GEORGIA TASKER
http://www.miami.com/mld/miami/3834617.htm
Posted on Fri, Aug. 09, 2002


ペルーで発見された新種の「スリッパオーキッド(パフィオペディルムやフラグミペディウムなどの略総称でレディーススッリッパーとも言う;訳者注)」は過去100年における最大の発見かも知れず、それが温室よりもっと競争力のある事業を招来しようとしている。ある人はそのランが南フロリダに密輸入されようとしていると言い、ある人は1株1万ドルで売りに出ているとも言う。米国政府はそのランに自分の名前をつけた人物を調査している。桃と木イチゴの色をした花は普通のスリッパオーキッドの倍以上の大きさがある。「この新種のランはとても大きく、ホンダに対するロールスロイスみたいなものだ」とアメリカ蘭協会(AOS)のアンディ・イーストン教育局長はデーレイビーチにある本部で語った。「ラン界は大騒ぎになっている」と。

ペルーは米国政府にこのランをすべて捕捉するように依頼し、米国魚類野生生物局が調査を開始した。ペルーラン協会は、フロリダのサラソタにあるマリエセルビ植物園のラン鑑定センターの科学者が違法な植物を認定し"Phragmipedium kovachii"と命名したことを非難している。この植物は夢のような商業価値の可能性を有している。ランは米国の花卉ビジネスの中でもっとも急激に伸びている分野であり、鉢植えのランは3年前からポインセチアを抜いてトップになり、年間1億ドルを売り上げており、国際的には10億ドルの取引規模になっている。

街道筋の売店
話はペルー中北部にある街道筋の花売り小屋から始まる。バージニア州ゴールドベインでラン栽培をしているマイク・コーバックは、そこで売られている巨大なスリッパオーキッドを見つけた。「ペルー北部の街道沿いのその場所には小さな小屋があり、そこで彼等の売り物を見せて貰ったのが、自分がその植物を見た最初である」。街道から4〜500m行った急斜面にその珍種の小さな群生があった。気になっていた彼は今年の春に現地を再訪し、そのランを見つけることができたが、多くが斜面からはぎ取られていた。口コミやインターネットで噂が拡がったことが分かった。「皆がどんどん行動し始めていると思ったので、一株を梱包し持ち帰った。言わば、ラン界における『聖杯の探求』のように」とコーバックは言う。

法律問題
しかし彼は同時に法的禁制のやぶをつついたことになり、国際的非難を引き起こした。「野生生物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」(以下CITES)はすべての絶滅危惧ランを原産国から移動することを禁じている。米国が1973年に調印しペルーが1989年に調印したこの条約は、米国では魚類野生生物局が担当しており、公開調査をすることに何のためらいもない。コーバックは鑑定のためとは言え米国に一株持ち込んだため、CITES違反の容疑で取り調べを受けている。彼は、条文から見て、旅行者が輸出許可を受けたラン栽培者から数株を持ち帰ることとペルーの街道沿いの農民が栽培者のために採集することは許されるはず、と主張している。

通関
コーバックはマイアミ国際空港に着き、件の植物の申告をし、植物検疫を通過した。次にサラソタのセルビ植物園に行き、生きたランと乾いた花を残してバージニアの自宅へ帰った。その際に依頼したのが「自分の名前をつけて欲しい」ことで、科学者はその通りにした。セルビ植物園の専門家は6月12日に発行された「セルビヤナ」誌に正式な記載をした。彼等は協力関係にあるリマの科学者にその植物を送った。ランの世界では、公刊物に最初に記載した個人または法人が、そのランに関する栄誉を永遠に得ることになっている。信じられないことに、全く同じ市でもうひとりの分類学者がこのランに関する記述を準備していた。サラソタのエリック・クリステンセンはAOSの7月号でこのランに関する記述を発表し、"Phragmipedium peruvianum" と命名した。彼は、実物は見ていないが、彼の友人がインターネットに写真と形状計測結果を載せたと言っている。

廃名
クリステンセンとAOSは遅きに失した。国際的な命名ルールに則り、自分がつけた名前を廃しセルビの名前を採用しなければならない。クリステンセンは怒り、セルビ植物園を「不法行為に組する悪の組織」と呼んでいる。CITESの規則では密輸した植物を保有することは違法としているが、セルビの科学者は「保有はしていない」と言っている。「植物を見つけ、手に取り、送り返しただけで、それを保有というのだろうか?」とセルビのラン専門家であるジョン・ベッカーは疑問を呈している。セルビの所長であるメグ・ローマンは、CITESは「時代遅れで非生産的」であり、「条約の発足時には善意に基づいたものであったが、今や科学の進歩を阻害している。問題なのはむしろ森林破壊そのものだ」と言う。科学者達が命名のことで争っている間に、その植物から富を得ようとする者が殺到している。南フロリダやカリフォルニアの栽培家によれば、そのランを売っても良いという電話がたくさんかかるとのことである。南マイアミのデーデでランの卸売業をしているテリー・グランシーによれば、その禁制のランを買いたい、2株で1万ドルまで出しても良い、と言う顧客があり、2株5千ドルで売っても良いという話がある、とのことである。カリフォルニアの匿名希望の商業育成家は「5千ドルという話は自分にもあったが、手を出さなかった。政治的なことで火傷したくないからね」と語った。

非合法輸入
「植物作戦」と呼ばれる魚類野生生物おとり捜査で、絶滅危惧のソテツとランを輸入したとして罰金を科された人が、カリフォルニアで昨年6人いた。罰金は100〜2万5千ドルの間で折衝された。イーストン教育局長は「それが問題なのだ。最近も山採りの植物がひとつ約250ドルで決着した。1,000ドルでどうだ、500ドルは、それなら250ドル、と競りの対象になっている」と言っている。南カリフォルニアのラン専門家であるマーチン・モーツは、ケンドールの輸入業者であるリー・ムーアから電話を受けた。彼はペルーが1989年にCITESに調印する前にペルーのアナナスとランを合法的に持ち込み、ペルーに家と財産を持ち、ペルーの女性と結婚し、自分の名前の付いたアナナスとランがあるとのこと。ムーアはモーツに「どこで商売すれば一番儲かるだろうか?」と聞いた。

植物の育成
ムーアがモーツに電話したのは、彼が Phragmipedium kovachii を自分が持つペルーの蘭園で育てており、その売り先と適正価格を聞きたいがためだった。ムーアの妻チャディは6月にペルーに戻った。「例の街道筋の売店に行き、そのインディオから73株の苗をひとつ1.5ドルで買った」と彼女は言っている。しかし、ムーアがその苗を調べると根に紫色の斑点があり、多くは別のスリッパーオーキッドと分かった。その後ムーアは20株前後のPhragmipedium kovachii の苗を買うことができた。彼は現在、このランを人工増殖している者に出資し、合法的に売ろうとしている。フラスコ栽培されたランは親株が合法的に入手され野生状態を脅かさない限り許可を受けて輸出入できると魚類野生生物局のゲーブルは言う。ムーアはこのランが大量生産できるかどうか懸念して「繁殖力はあまり旺盛ではないのではないか。もし旺盛なら、そこいら中、このランだらけになるはずだから」と言っている。いずれにせよ競争は既に始まっている。ムーアはこのレディーススリッパの苗を育てており、他の蘭園でも200本ほど育てている。ムーアとコーバックは最近事業上の合意に達した。コーバックは弁護士と相談の上、ムーアをペルーにおける契約育種家として雇うことになった。「すべて終わったときには」とコーバックは言った。「とてもいい本が書けると思うよ」

以上

TOP ___ BACK